・・・ペリカンは余の要求しないのに印気を無暗にぽたぽた原稿紙の上へ落したり、又は是非墨色を出して貰わなければ済まない時、頑として要求を拒絶したり、随分持主を虐待した。尤も持主たる余の方でもペリカンを厚遇しなかったかも知れない。無精な余は印気がなく・・・ 夏目漱石 「余と万年筆」
・・・ みんなは傘をさしたり小さな簑からすきとおるつめたい雫をぽたぽた落したりして学校に来ました。 雨はたびたび霽れて雲も白く光りましたけれども今日は誰もあんまり教室の窓からあの丘の栗の木の処を見ませんでした。又三郎などもはじめこそはほん・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ めくらぶどうの藪からはきれいな雫がぽたぽた落ちる。 かすかなけはいが藪のかげからのぼってくる。今夜市庁のホールでうたうマリヴロン女史がライラックいろのもすそをひいてみんなをのがれて来たのである。 いま、そのうしろ、東の灰色の山・・・ 宮沢賢治 「マリヴロンと少女」
・・・さみしさ凄さはこればかりでもなくて、曲りくねッたさも悪徒らしい古木の洞穴には梟があの怖らしい両眼で月を睨みながら宿鳥を引き裂いて生血をぽたぽた…… 崖下にある一構えの第宅は郷士の住処と見え、よほど古びてはいるが、骨太く粧飾少く、夕顔の干・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫