・・・と笑いこけた、その唇から特異な言葉をぽつぽつと語る新進芸術家として描かれている。 閉じこめられたまま清純のまま続いていたジイドの青春は、二十四歳の時、突然その清教徒的規律を破った。彼は在来の周囲に激しい厭悪を感じて友人のロオランとチュニ・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・これが大正五年の『中央公論』で、引つづいてぽつぽつ外国へ行くまでに六つ位発表したと思います。どれもなかり枚数の多いもので、殆んど『中央公論』が主でしたが、中には『東京日日新聞』に載せた「三郎爺」などというのもありました。「三郎爺」は軽い・・・ 宮本百合子 「十年の思い出」
・・・〔欄外に〕ぽつぽつ雨、浜中、帽中をいたわって大さわぎをする。 ラジオニュース「松島事件」の○○氏は保釈出獄しました由、大阪電話。 From Annette & Sylvie “An・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・―― 何年だったか、兎に角その或る薄ら寒い午後、芥川さんは制服の膝をきちんと折って坐って、ぽつぽつ喋りながら、時々、両肱を張って手を胸の前で合わせては上から下へ押し下げるような風をなすった。 やがて夕方になり、三人はお鮨をたべた。ト・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
・・・片町の家には只空地があるばかりで、我々が素人の好みで、ぽつぽつ植込んだ植木が僅かに潤いを与えて居る位である。 無言のうちに少しなだめられて、二人は、ずっと、門傍の木戸から、奥に行って見た。此方にも鍵なりの地面があり、棕櫚や梧桐、楓らしい・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・高い方の山は、相間々々にぽつぽつ遣れば好い為事である。当り前の分担事務の外に、字句の訂正を要するために、余所の局からも、木村の処へ来る書類がある。そんなのも急ぎでないのはこの中に這入っている。 書類を持ち出して置いて、椅子に掛けて、木村・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・さて五月六日になったが、まだ殉死する人がぽつぽつある。殉死する本人や親兄弟妻子は言うまでもなく、なんの由縁もないものでも、京都から来るお針医と江戸から下る御上使との接待の用意なんぞはうわの空でしていて、ただ殉死のことばかり思っている。例年簷・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・でも己は不動の目玉は焼かねえ。ぽつぽつ遣って行くのだ。里芋を選り分けるような工合に遣って行くのだ。兄きなんぞの前へ里芋の泥だらけな奴なんぞを出そうもんなら、かます籠め百姓の面へ敲き附けちまうだろうよ。」「己は化学者になって好かったよ。化・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
・・・ そのうちにこういう小説がぽつぽつと禁止せられて来た。その趣意は、あんな消極的思想は安寧秩序を紊る、あんな衝動生活の叙述は風俗を壊乱するというのであった。 丁度その頃この土地に革命者の運動が起っていて、例の椰子の殻の爆裂弾を持ち廻る・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・ 表庭の百日紅に、ぽつぽつ花が咲き始める。おりおり蝉の声が向いの家の糸車の音にまじる。六日は日曜日で、石田の処へも暑中見舞の客が沢山来た。初め世帯を持つときに、渋紙のようなもので拵えた座布団を三枚買った。まだ余り使わないのに中に入れた綿・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫