-
・・・いつか飛行船はけむりを納めて、しばらく挨拶するように輪を描いていましたが、やがて船首をたれてしずかに雲の中へ沈んで行ってしまいました。 受話器がジーと鳴りました。ペンネン技師の声でした。「飛行船はいま帰って来た。下のほうのしたくはす・・・
宮沢賢治
「グスコーブドリの伝記」
-
・・・ 尾世川と藍子とは、最後の鼠色の船が、先ず船首の端から明るみ、帆の裾、中頃ぐらい、段々遂に張った帆の端が真白になってしまう迄、瞳を凝し見守った。「……変だなあ……」 藍子が、眼をしぼしぼさせながら、若々しい驚きを面に現して云った・・・
宮本百合子
「帆」