・・・こう云う傾向の存する限り、微細な効果の享楽家には如何なる彼の傑作と雖も、十分の満足を与えないであろう。 ショオとゴオルスウアアズイとを比較した場合、ショオはゴオルスウアアズイよりも偉大であるが、ゴオルスウアアズイよりも芸術家ではないと云・・・ 芥川竜之介 「「菊池寛全集」の序」
・・・殊に色白なその頬は寝入ってから健康そうに上気して、その間に形よく盛り上った小鼻は穏やかな呼吸と共に微細に震えていた。「クララの光の髪、アグネスの光の眼」といわれた、無類な潤みを持った童女にしてはどこか哀れな、大きなその眼は見る事が出来なかっ・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・その運動は目に見えない位に微細である。しかし革紐が緊しく張っているのと、痙攣のように体が顫うのとを見れば、非常な努力をしているのが知れる。ある恐るべき事が目前に行われているのが知れる。「待て。」横の方から誰やらが中音で声を掛けた。 ・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・「伝統、ということになりますると、よほどのあやまちも、気がつかずに見逃してしまうが、問題は、微細なところに沢山あるのです。もっと自由な立場で、極く初等的な万人むきの解析概論の出ることを、切に、希望している次第であります。」めちゃめちゃである・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・それは、いつわりの無い、白々しく興覚めするほどの、生真面目なお約束なのであるが、私が、いま、このような乱暴な告白を致したのは、私は、こんな借銭未済の罪こそ犯しているが、いまだかつて、どろぼうは、致したことが無いと言うことを確言したかったから・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・ われら、いま、微細といえども、君ひとり死なせたる世の悪への痛憤、子々孫々ひまあるごとに語り聞かせ、君の肖像、かならず、子らの机上に飾らせ、その子、その孫、約して語りつがせむ。ああ、この世くらくして、君に約するに、世界を覆う厳粛華麗の百年祭・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・マッチのペーパーや広告の散らし紙や、女の子のおもちゃにするおすべ紙や、あらゆるそう云った色刷のどれかを想い出させるような片々が見出されて来た。微細な断片が想像の力で補充されて頭の中には色々な大きな色彩の模様が現われて来た。 普通の白地に・・・ 寺田寅彦 「浅草紙」
・・・従って顔の小じわの一つ一つ、その筋肉の微細な運動までが異常に郭大される。指先の神経的な微動でもそれが恐ろしくこくめいに強調されて見える。それだから大写しの顔や手は、決して「芝居」をしてはいけないことになっている。それをするといやみで見ていら・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・尤も映画で見られるほどの運動は老人の膝に認められないが、微細な波動がないとは云われないのである。 しかし、また一方から考えると、元来多くの鳥は天性の音楽家であり、鴉でも実際かなりに色々の「歌」を唄うことが出来るばかりでなく、ロンドンの動・・・ 寺田寅彦 「鴉と唱歌」
・・・そうしてこの線を組織するきわめて微細な繊維のようになった自分の「銀座線」とでもいったようなものがあり、これが昔のの中の銀座の夢につながっているのである。このの中では銀座というものが印象的にはかなり重要な部分を占めていた、それの影響が後年の―・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
出典:青空文庫