・・・生蕃、そんな及び腰をするなよ。みっともない。……これでだいたいいい……さあみんな舞台よきところにすわれ。若夫婦はその椅子だ。なにしろ俺たちは、一人のだいじな友人を犠牲に供して飯を食わねばならぬ悲境にあるんだ。ドモ又は俺たち五人の仲間から消え・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・「尾が、あんまり大きくて、みっともないよ。」 みんなは、げらげら笑い出しました。おじさんは、きまりが悪くなって、「象は、下手ですから、なにか、ほかのものを造ってあげましょう。」といいました。けれど、子供たちは、もう、信じませんで・・・ 小川未明 「夏の晩方あった話」
・・・お家へ帰ると、お姉さんは、「なぜ、あんなみっともないことをいうの、人が笑ってゆくじゃありませんか。」といって、正ちゃんをしかりました。「ほんとうだから、いいだろう。僕、おしるこたべたいな。」と、正ちゃんは、いいました。「いいえ、・・・ 小川未明 「ねことおしるこ」
・・・ そんな母親を蝶子はみっともないとも哀れとも思った。それで、母親を欺して買食いの金をせしめたり、天婦羅の売上箱から小銭を盗んだりして来たことが、ちょっと後悔された。種吉の天婦羅は味で売ってなかなか評判よかったが、そのため損をしているよう・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・そんな時彼は友だちに「童貞の古物なんかブラ下げているなよ、みっともない!」 と言われる。が、それは彼には当っていなかった。彼は童貞をなくすことにはそう未練を持っていない。ただその場合だって、お互が人格的な関係にあることが、彼には絶対に必要だ・・・ 小林多喜二 「雪の夜」
・・・けれども、決して、みっともないものではなかった。なかなかである。深夜、裸形で鏡に向い、にっと可愛く微笑してみたり、ふっくらした白い両足を、ヘチマコロンで洗って、その指先にそっと自身で接吻して、うっとり眼をつぶってみたり、いちど、鼻の先に、針・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・おまえが、そんな鳥の羽根なんかつけた帽子をかぶっているものだから、みんな笑っているじゃないか。みっともないよ。僕は、女の銘仙の和服姿が一ばん好きだ。」 とみは笑っていた。「何がおかしい。おまえは、へんに生意気になったね。さっきも僕が・・・ 太宰治 「花燭」
・・・善良さを矢鱈に売込もうとしているようで、実にみっともない。君は、そんなに「かよわく」善良なのですか。御両親を捨てて上京し、がむしゃらに小説を書いて突進し、とうとう小説家としての一戸を構えた。気の弱い、根からの善人には、とても出来る仕業ではあ・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・ あっちへ行け! みっともない。私は社会党の右派でも左派でもなければ、共産党員でもない。芸術家というものだ。覚えて置き給え。不潔なごまかしが、何よりもきらいなんだ。どだい、あなたは、なめていやがる。そんな当りさわりの無い、いい加減な事を言っ・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・ゆえ、いたずらに、あの、あの、とばかり申して膝をゆすり、稀には、へえ、などの平伏の返事まで飛び出す始末で、われながら、みっともない。かくては、襖の蔭で縫いものをしている家の者に迄あなどられる結果になるやも知れぬという、けち臭い打算から、私は・・・ 太宰治 「乞食学生」
出典:青空文庫