・・・重視しているということと、一層強くなっている食糧人民管理の潮先とが、並んで一枚の紙面を埋めているのである。宮城地方では、農民が「隠匿油罐を踏み台」にして政府の主食糧強制買上に反対の気勢を上げた。農民の、分厚い肩が重なって、話をきいている写真・・・ 宮本百合子 「人民戦線への一歩」
・・・自分等葡萄棚の涼台で、その号外を見、話をきき、三越、丸の内の諸ビルディング 大学 宮城がみなやけた戒厳令をしいたときく。ぞっとし、さむけがし、ぼんやりした。が全部信ぜず、半分とし、とにかく四日に立つと、前きめた通りにする。吉田氏帰村し、驚き・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ 宮城道雄氏は、彼の琴に対して、謂わば必死の芸術的態度を持しているひとであろうと感じられる。いつの間にやら、その自分の芸術が形なき日本のトゥリスト・ビューロウの定例的余興番組に入れられていたとしたら、彼の熱心は果して如何に感じるであろう・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・そのひとから獄中で死んだ幾人かの人々の話をきいた。宮城刑務所にいた市川正一が、すっかり歯をわるくしたのに治療をうけられず、麦飯を指でこねつぶして食べていた。そうして生きようと努力していた。が、最後には僅か九貫目の体重になって死んだ。戸坂潤は・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ ちょうど、もう行進がはじまっている。宮城前広場から、ここを通って上野へ行くのは、城東地区の組合である。隊伍堂々とプラカードをかかげて、パラパラおちる雨をものともせず歌いながら行進してくる。その隊伍を一目見て、私は思わず囁き、涙を抑えか・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
・・・号外によれば、一日の十二時二分前、東京及び湘南地方に大地震があり、多くの家屋が倒壊すると同時に、四十八箇所から火を発し、警視庁、帝劇、三越、白木屋、東京駅、帝国大学その他重要な建物全焼、宮城さえ今猶お燃えつつある。丸の内、海上ビルディング内・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・巨大な欧米風建築に取り囲まれた宮城前の広場に立ってしみじみと感ぜさせられることは、江戸時代の遺構が実に強い底力を持っているということである。それは周囲に対立者のない時にはさほど目立たなかった。それほど何げのない、なだらかな、当たり前の形をし・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫