・・・僕は一生懸命にそうはさせまいとしましたけれども、多勢に無勢で迚も叶いません。僕のポッケットの中からは、見る見るマーブル球(今のビー球や鉛のメンコなどと一緒に二つの絵具のかたまりが掴み出されてしまいました。「それ見ろ」といわんばかりの顔をして・・・ 有島武郎 「一房の葡萄」
・・・集団農場を組織して三年間は無税だ。種代、農具代は、政府の補助がある。集団農場員が冬を越すに必要な薪を伐り出す森林はタダで国家からもらう。集団農場員の家族は、年寄、子供で働けない者でも、集団農場が養って食わしてくれるのだ。何と安心だろう!・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
・・・「味方は無勢じゃ、秩父どの」「さても……」「思わぬ……」敵はまぢかく近寄ッた。「動くな、落武者。知らぬか、新田義興は昨日矢口で殺されてじゃ」「なに、二の君が」「今さら知ッたか、覚悟せよ」 跡は降ッた、剣の雨が。草は貰ッた、赤・・・ 山田美妙 「武蔵野」
出典:青空文庫