・・・下級の先生は、むっつり顔で何か云いわけしながら五束、五年の先生にうどんをわけた。唱歌の先生へは、家を持っていないのだからと云って一束もわけなかった。 二人の先生はおすそわけにあずかったうどんを風呂敷につつんで往来へ出たが、下級の先生のや・・・ 宮本百合子 「「うどんくい」」
・・・自分はむっつりして黙って歩いた。 二階の塵っぽい室へ入ると。「じゃ、一寸これに返事を書いてやって下さい」と、半紙に書いたヤスの手紙を見せた。面会させてくれと来たが、会わされないから返事だけ書けというのだ。警察備品らしい筆で、・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・島田のお家の前の往来に一杯御父上、母上、軍服を着た達治さん、むっつりした隆治さん、国旗を手にした信吉叔父上その他を中心に見送りの男の人達が円く溢れたところをとったものです。あの狭い往来のこちら側からむかい側の軒下まで人でつまっていて、もしバ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 五色のイルミネーションは対岸のモスクワ市発電所にもあって、三百六十四日はむっつり暗いモスクワ河の水を色とりどりにチラつかせている。 モスクワの群集はイルミネーションに対しては素朴である。群集の中から満足した笑いごえがし、或る者はそ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・の学生達が、むっつり黙って、だが全身の注意を集めて参加しているゴーリキイの目の前で「生えぬきだ!」とか「民衆の子だ!」とか感嘆し合うのが少なからず彼にばつの悪い思いをさせるのであったが、ゴーリキイは、彼らに対して深い興味と渇望とをもって接し・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
出典:青空文庫