・・・力はあるし、棺桶をめりめりと鳴らした。それが高島田だったというからなお稀有である。地獄も見て来たよ――極楽は、お手のものだ、とト筮ごときは掌である。且つ寺子屋仕込みで、本が読める。五経、文選すらすらで、書がまた好い。一度冥途をってからは、仏・・・ 泉鏡花 「絵本の春」
・・・上頤下頤へ拳を引掛け、透通る歯と紅さいた唇を、めりめりと引裂く、売女。(足を挙げて、枯草を踏蹂画工 ううむ、(二声ばかり、夢に魘紳士 女郎、こっちへ来い。(杖をもって一方を指侍女 はい。紳士 頭を着けろ、被れ。俺の前を烏のよ・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・天狗の大木を伐り倒す音がめりめりと聞えたり、小屋の口あたりで、誰かのあずきをとぐ気配がさくさくと耳についたり、遠いところから山人の笑い声がはっきり響いて来たりするのであった。 父親を待ちわびたスワは、わらぶとん着て炉ばたへ寝てしまった。・・・ 太宰治 「魚服記」
・・・すると、めりめりめりめりっ。 山男はすっかりもとのような、赤髪の立派なからだになりました。陳はちょうど丸薬を水薬といっしょにのむところでしたが、あまりびっくりして、水薬はこぼして丸薬だけのみました。さあ、たいへん、みるみる陳のあたまがめ・・・ 宮沢賢治 「山男の四月」
出典:青空文庫