・・・とけたたましい声がして、うす黒いもじゃもじゃした鳥のような形のものが、ばたばたばたばたもがきながら、流れて参りました。 ホモイは急いで岸にかけよって、じっと待ちかまえました。 流されるのは、たしかにやせたひばりの子供です。ホモイはい・・・ 宮沢賢治 「貝の火」
・・・おしまいにはとのさまがえるは、十一疋のあまがえるを、もじゃもじゃ堅めて、ぺちゃんと投げつけました。あまがえるはすっかり恐れ入って、ふるえて、すきとおる位青くなって、その辺に平伏いたしました。そこでとのさまがえるがおごそかに云いました。「・・・ 宮沢賢治 「カイロ団長」
・・・山吹の青いえだや何かもじゃもじゃしている。さきに行くのは大内だ。大内は夏服の上に黄色な実習服を着て結びを腰にさげてずんずん藪をこいで行く。よくこいで行く。急にけわしい段がある。木につかまれ木は光る。雑木は二本雑木が光る。「じゃ木さば・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・ 署長さんは落ち着いて、卓子の上の鐘を一つカーンと叩いて、赤ひげのもじゃもじゃ生えた、第一等の探偵を呼びました。 さて署長さんは縛られて、裁判にかかり死刑ということにきまりました。 いよいよ巨きな曲った刀で、首を落されるとき、署・・・ 宮沢賢治 「毒もみのすきな署長さん」
・・・まるで蕈とあすなろとの合の子みたいな変な木が崖にもじゃもじゃ生えていた。そして本当に幸なことはそこには雷竜がいなかった。けれども折角登ってもそこらの景色はあんまりいいというでもない、岬の右も左の方も泥・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・するとさっきの大きな男が、髪をもじゃもじゃして、しきりに村の若い者にいじめられているのでした。額から汗を流してなんべんも頭を下げていました。 何か言おうとするのでしたが、どうもひどくどもってしまって語が出ないようすでした。 てかてか・・・ 宮沢賢治 「祭の晩」
・・・立派な王冠の左右へ、虫の巣のように毛もじゃもじゃな黒い穴ばかりが、ポカリと開いていた。 その様子が非常に滑稽だったので、子供達や、正直な若い者は、皆、 王様は立派でいらっしゃるが、あの耳だけはおかしいなあ、と云ったり、笑ったりし・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
・・・と云いは云ったが、菊太をけなすでも祖母に味方するでもなく気のない顔をして、飯坂の力餅をもじゃもじゃの髯の中へ投げ込んで、やがて「お寝み」と云って帰って仕舞った。「ほんとうに小作男なんか使うのが間違いだ。ああ、ああ、けっぱいけ・・・ 宮本百合子 「農村」
出典:青空文庫