・・・を挙ぐれば四、五十句に過ぎざるべく、中につきて絵画となし得べきものを択みなば鶯や柳のうしろ藪の前 芭蕉梅が香にのっと日の出る山路かな 同古寺の桃に米蹈む男かな 同時鳥大竹藪を漏る月夜 同さゝれ蟹足はひ上る清水・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・廻了というは正方形を一周することなれどもその間には第一基第二基第三基等の関門あり各関門には番人(第一基は第一基人これを守る第二第三皆あるをもって容易に通過すること能わざる也。走者ある事情のもとに通過の権利を失うを除外という。審判官除外と呼べ・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・その男は、片眼で、見えない方の眼は、白くびくびくうごき、上着のような半纒のようなへんなものを着て、だいいち足が、ひどくまがって山羊のよう、ことにそのあしさきときたら、ごはんをもるへらのかたちだったのです。一郎は気味が悪かったのですが、なるべ・・・ 宮沢賢治 「どんぐりと山猫」
・・・きょう、またおどろくような迅さで、日本の人民生活と文化とが高波にさらされようとしているとき、文学を文学として守るためにも、この著者の諸評論は丈夫な足がかりを与えるものである。〔一九四八年六月〕・・・ 宮本百合子 「巖の花」
・・・戦わなければならないでもない作家、一面には社と社との激烈な競争によって刺戟され、一面には報道陣の戦死としての矜りから死を突破しようとさえする従軍記者でもない作家、謂わば、命を一つめぐってそれをすてるか守るかしようとする熾烈な目的をも、立場の・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・いう文明の発端から、人類の医療の父として語られるヒポクラテスの話におよびさらに、ウィリアム・ハーヴェーの血液循環の発見があり、やがてパストゥールによって細菌が発見されたのも、ジェンナーの種痘の試みも、モルトンによる麻睡薬の試用も、すべて十九・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・いう文明の発端から、人類の医療の父として語られるヒポクラテスの話におよびさらに、ウィリアム・ハーヴェーの血液循環の発見があり、やがてパストゥールによって細菌が発見されたのも、ジェンナーの種痘の試みも、モルトンによる麻睡薬の試用も、すべて十九・・・ 宮本百合子 「科学の常識のため」
・・・このことは、作品のなかにトピックとして或は題材として世相を盛るということよりは遙にむずかしく深く、そして文学を文学たらしめるものであるのだと思う。〔一九四〇年二月〕 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・藤村の若菜集は、二十六歳の青年詩人の情熱をもると同時に自らその当時の社会の若々しい格調を響かせたのであった。『若菜集』の序のうたに、藤村は自分の詩作を葡萄の実になぞらえている。この一巻に収められている「草枕」「あけぼの」「春は来ぬ」「潮・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・だが、吉行エイスケが中国の日常風景を作品に盛る場合、作者にとって主要な精髄は、銀座にあるとは種類の変った現代中国エロ・グロ風景だ。資本主義化された海港都市にあって一層グロテスクであるところの中国苦力に乞食。エロチックであるところの植民地中国・・・ 宮本百合子 「プロレタリア文学における国際的主題について」
出典:青空文庫