・・・ 同仁病院長山井博士の診断に従えば、半三郎の死因は脳溢血である。が、半三郎自身は不幸にも脳溢血とは思っていない。第一死んだとも思っていない。ただいつか見たことのない事務室へ来たのに驚いている。―― 事務室の窓かけは日の光の中にゆっく・・・ 芥川竜之介 「馬の脚」
・・・この現象については、最近に、土佐郷土史の権威として知られた杜山居士寺石正路氏が雑誌「土佐史壇」第十七号に「郷土史断片」その三〇として記載されたものがある。「昔はだいぶ評判の事であったが、このごろは全くその沙汰がない、根拠の無き話かと思えば、・・・ 寺田寅彦 「怪異考」
・・・小一條左大将済時卿は四月二十三日、六條左大臣、粟田右大臣、桃園中納言保光卿は、三人とも五月八日一度に死んだ。山井大納言は六月十一日に亡き人となった。斯那ことは又となかろう。大臣公卿が七八人、二三月のうちにかき払われて仕舞うことは稀有な出来事・・・ 宮本百合子 「余録(一九二四年より)」
出典:青空文庫