・・・ 第九の四歳馬特別競走では、1のホワイトステーツ号が大きく出遅れて勝負を投げてしまったが、次の新抽優勝競走では寺田の買ったラッキーカップ号が二着馬を三馬身引離して、五番人気で百六十円の大穴だった。寺田はむしろ悲痛な顔をしながら、配当を受・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・いわんやまた趣味には高下もあり優劣もあるから、優越の地に立ちたいという優勝慾も無論手伝うことであって、ここに茶事という孤独的でない会合的の興味ある事が存するにおいては、誰か茶讌を好まぬものがあろう。そしてまた誰か他人の所有に優るところの面白・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・安富は細川の家では大したもので、応仁の恐ろしい大乱の時、敵の山名方の幾頭かの勇将軍が必死になって目ざして打取って辛くも悦んだのは安富之綱であった。又打死はしたが、相国寺の戦に敵の総帥の山名宗全を脅かして、老体の大入道をして大汗をかいて悪戦さ・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・私は学生倶楽部で、何時でも射撃の最優勝者ではなかったか。馬に乗りながらでも十発九中。殺してやろう、私は侮辱を受けたのだ。この町では決闘は、若し、それが正当のものであったなら、役人から受ける刑罰もごく軽く、別に名誉を損ずるほどのことにならぬと・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ 山上通信太宰治 けさ、新聞にて、マラソン優勝と、芥川賞と、二つの記事、読んで、涙が出ました。孫という人の白い歯出して力んでいる顔を見て、この人の努力が、そのまま、肉体的にわかりました。それから、芥川賞の記事を読・・・ 太宰治 「創生記」
・・・私が七つのときに、私の村の草競馬で優勝した得意満面の馬の顔を見た。私は、あれあれと指さして嘲った。それ以来、私の不仕合せがはじまった。おまつりが好きなのだけれども、死ぬるほど好きなのだけれども、私は風邪をひいたといつわり、その日一日、部屋を・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・ずっと昔、たしか南米で生玉子の競食で優勝はしたが即死した男があった。今度のレコードは食った量のほかに所要時間を測定してあるのが進歩である。時間が無制限ならば百や二百の生玉子をのむのは容易である。 ウィーンのある男は厳重なる検閲のもとにウ・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・近ごろ見たニュースの中で実におもしろかったのはオリンピック優勝選手のカメラマイクロフォンの前に立ったときのいろいろな表情であった。言葉で現わされない人間の真相が躍然としてスクリーンの上に動いて観客の肺腑に焼き付くのであった。 こういう効・・・ 寺田寅彦 「ニュース映画と新聞記事」
・・・競技の進行するに従って自然に優勝者と劣敗者の二つの群が出来てくる。 優者の進歩の速度は始めには目ざましいように早い。しかし始めには正であった加速度はだんだん減少して零になって次には負になる。そうしてちょうど四十歳近くで漸近的に一つの極限・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・そのとき綺羅を飾った少女たちの間に、村上けい子という最優賞の娘は、質素な紡績絣の着物に色の褪せた海老茶の袴という姿で人々を感動させたという新聞の記事が出た。私はその記事を読んで涙をこぼした。けれども、おけいちゃんがどうして受かる筈の試験をは・・・ 宮本百合子 「なつかしい仲間」
出典:青空文庫