・・・第三の精霊 私のほんの心できいてもなにも大した事等は起らぬ、私がこの精女殿に――まっしろけな幼児の様な心をもったこの御人にたのんで云うてもらった事じゃ。第二の精霊 その様な事をたのむとはサテサテ――ほんとうに御主にはこの精女殿が美く・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・は、まだ多分に、この作者が幼時の環境からしみこまされていたアナーキスティックな爆発があった。しかし、少女時代の労働のために健康を失ったこの作者が、妻、母として、党員として東北の小さい町に負担の多い生活とたたかいながら一つ一つ作品を重ねて来て・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
・・・謂わばまあ埃と毛髪のこね物なのだが、そこへ、二本妻楊子がさしてある。 蕨を出て程なく婆さんは、私に訊いた。「大宮はまだでしょうか」「この次浦和でしょう? 次が与野、大宮です。――大きい停車場だからすぐわかりますよ」「どうも有・・・ 宮本百合子 「一隅」
・・・ 一太は、楊枝の先に一粒ずつ黒豆を突さし、沁み沁み美味さ嬉しさを味いつつ食べ始める。傍で、じろじろ息子を見守りながら、ツメオも茶をよばれた。 これは雨が何しろ樋をはずれてバシャバシャ落ちる程の降りの日のことだが、それ程でなく、天気が・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・ 私は、久しぶりで、三つ四つの幼児を見るように楽しい、暖い、微笑ましい心持になって来た。子供の居ない家に欠けて居た旺盛な活動慾、清らかな悪戯、叱り乍ら笑わずに居られない無邪気な愛嬌が、いきなり拾われて来た一匹の仔犬によって、四辺一杯にふ・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・「――でも、あなた自分の歯楊子をひとに貸す?」 メーラはインガの質問をはぐらかした。「ああ、私丁度歯楊子をなくしたところだった。どうもありがとう。思い出さしてくれて!」 インガは考えるのであった。自分は工場管理者という自分の・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ 幼児の生活が、健康の点にも精神の上にも一生を通じて大切だということに着目されて来たのはよろこばしいことです。 ところが、中学生のものになると、今出ている少年向の雑誌の多くは、急に内容がおそまつになっています。どう編集していいかわか・・・ 宮本百合子 「親子いっしょに」
・・・多くの女達は冷たい幼児の手を取って自分の頬にすりつけながら声をあげて泣いて居る。啜り泣きの声と吐息の満ちた中に私は只化石した様に立って居る。「何か奇蹟が表われる事だろう。 残されて歎く両親のため同胞のために。 奇蹟も表わ・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・がとりあげて語るところは、この一人の幼児の生命のためにサン・マリノの全住民がケティを救えと協力したばかりでなく、ラジオを通じてほとんど全米の注意がケティの安否に向けられた点だった。人の命を荒っぽく扱うにならされた日本のすべての人が、ひとの命・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・石橋湛山は、編輯者としてインフレーション問題を扱えば、まさか聖書の文句を引用して幼児の如くあらずんば天国に入るを得ず、とあるから国民よ、幼児のごとく政府を信頼せよ、とは書かなかったであろう。しかし大臣となって、いかな魔法のためか、その椅子は・・・ 宮本百合子 「豪華版」
出典:青空文庫