・・・が、露文学に依って油をさされて自然に発展して来たので、それと一方、志士肌の齎した慷慨熱――この二つの傾向が、当初のうちはどちらに傾くともなく、殆ど平行して進んでいた。が、漸く帝国主義の熱が醒めて、文学熱のみ独り熾んになって来た。 併し、・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・ふ慈母の恩慈母の懐抱別に春あり春あり成長して浪花にあり 梅は白し浪花橋辺財主の家 春情まなび得たり浪花風流郷を辞し弟に負て身三春 本をわすれ末を取接木の梅故郷春深し行々て又行々 楊柳長堤道漸くくれたり矯首はじめて見る故園・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・(兵卒悄然(兵卒らこの時漸く饑餓を回復し良心の苛責に勝兵卒三「おれたちは恐ろしいことをしてしまったなあ。」兵卒十「全く夢中でやってしまったなあ。」兵卒一「勲章と胃袋にゴム糸がついていたようだったなあ」兵卒九「・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ 大層この頃は時候が悪い様だ、お節はどうして居ると云われた時に、漸く栄蔵はお君の事を話し出した。「同じ結核でも胸につきますよりは、腰骨についた方がよいようでございますから。と云って、主婦を驚ろかした。 骨盤結核だと聞・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・という簡明な要約で「風知草」にとりあげられている一つの問題は、ひろ子ひとりに関する心理の問題ではない。たとえば、佐多稲子の「くれない」という小説の女主人公の苦悩の根底にも潜んでいる問題である。しかし、治安維持法があり、現実が現実の内容のまま・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・彼女のような廉直なひとに、彌次馬的なわいわい騒ぎや、女だということについての物見高さや、俄な尊敬、阿諛がうんざりであったこと、その気分からそういう形に要約された言葉の出たこともわかる。けれども、エーヴの筆がやはりその限界にとどまっていること・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・ 著者は、文章学というものが過去の修辞学と異なったものとしてうち立てられる現代の必然性を大体次のように要約されている。「現代の文章は何よりも先ず、自己の思想があらわに出ていなければならぬ。思想と文章との一致、これが現代文章の唯一の準・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ 私へ下さる通信の書籍の名で占められている部分、また非常に要約された文章、またはあるときは全く言葉としては書かれていないことがあっても、私に感じられているものが、父へのお手紙の中には横溢されて居るのを感じました。くりかえしくりかえしよみ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・能や仕舞は庶民生活の中から自然にわき出した動作が要約され芸術化されたものではなくて、貴族生活、武士生活の感情と思想とが洗練し集約しつくした動きに象徴されたものである。習ってゆく道すじから云うと、能や仕舞ほど形式への絶対の服従を求める芸は殆ど・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ひとくちに要約すれば、それは文学に於ける人間の再生の課題であろうと思う。人間は文学の世界において、物に従属させられる人間から、物の主人である人間の現実の生命をとり戻さなければならないであろう。生存の条件の下に自主の力のない運命をくりひろげる・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫