・・・何処まで、形式、内容が発達して行くか、 私にとっては、頭のためにも、感情のためにも、よい余技を見出した。 五月一日あらゆるものが、さっと芽ぐみ、何と云う 春だ!自分の心は、此二十四歳の女の心は知らない憧憬に・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・ 文学研究会の任務は、先ず職場にいる研究会員の従来のような余技的な文学興味への引こもりをやめさせて、工場内の工場新聞、壁新聞と密接な結合を持つこと。一九三〇年の秋の新経済年度から、文学研究会は大衆の生産経済計画に対する理解と、それを充実・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・四五日うちに新しい夜着もお届け出来ます。この絵は文学的ではあるが、不折が描くところ面白いでしょう? 私は気に入って居ります。 おなかの工合はいかがですか。一口にたっぷり口に入れてゆっくりかむことは大変よいそうです。〔約五字抹消〕もそのよ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・袖のある夜着は、今のでは寒中お困りでしょう! 洗濯毛布が入って毛布が二枚になったら、厚い夜着と代えることが出来るでしょうか? 夜着は十二月に出来ますが、ダラダララインは、今私の舌たらずな発音では大変言いにくくて、ダアダア、アインと聞えるそう・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・私は余技アマチュアというものの主観的な特長を一席実物について父に話してきかせました。 おや、耳の中がキーンと云う。変ね。そろそろ寝ろとの知らせでしょう。馬のついた文鎮をのせて又この次。 今は八日の午後三時。ひどい風の音にまじって、隣・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 弟共はすっかりそろって炬燵の囲りに集って、私の寝坊なのを笑って居る処へ眼を覚した私は、家が飛んできそうに皆が笑うのにびっくりして、重い夜着の中から、「何? 何なのときいた。「あんまりよく寝るから 隣の部屋で外出の仕度を・・・ 宮本百合子 「午後」
・・・何か一つ遣りたいこと、しとげたい目的をもっている女性にとって、二十五・六という年は結婚とも絡んで愈々そのことに本腰にならせるか、或は余技的なものにするかという境のようなところがある。そんなことでも、二十五は男の厄という古い現実はいつか消しと・・・ 宮本百合子 「小鈴」
・・・私の弟のやさしい従順な家内が、あんなに朝から晩まであれこれ心をくばって暮しているのに、腰紐に小さい鈴が一つくっついていて、朝身じまいをするときだの、夜着物をきかえる時だの、何処かでチリリと鳴ったとしたら、やっぱりそれはわるい心地もしないだろ・・・ 宮本百合子 「小鈴」
・・・ 文学は脱世的なものであり得ないのだし、人生と歴史とにとって決して余技的なものではないのだから、青野氏の文章の前半は、現代日本の文学精神が、どこやらにまだ二葉亭四迷の時代の文化的業績評価の尾を引いているようで、今日に云われる一つの感想と・・・ 宮本百合子 「作家と時代意識」
・・・ 科学者が自身の科学的知識によって文筆上いろいろ遊ぶのがいけないと一口に云い切れないかもしれないが、少くとも本当の科学者であるならば、科学の健全性、啓蒙性に沿って、こういう種類の余技、或は道楽をするべきであると思う。それは科学者としての・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
出典:青空文庫