・・・趣味、余技などというなまやさしいところを抜け、百姓ならば汗だくだくになって振った鍬を一休みし、額や頸でも拭きながら腰を延して「やあ、どうだ、うまく行くか」と声をかけ合う、そういう交りが実に実に欲しいのだ。 男の人は誰でもそういう友達があ・・・ 宮本百合子 「大切な芽」
・・・日本の生活とは違い、交際も多く、用事も多いながら、建築や、日常風俗の影響から、一日に少くとも午後数時間の余暇は持ち得るあちらの生活では、遣ろうと思えば余技的な研究はいくらでも出来ます。その時間を利用して仕事を持続する丈で満足と思う人ならば簡・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・ こういう風趣の作品を書いた作者落華生が、コロンビア大学、オクスフォード大学に遊学して、専門は印度哲学の教授であるというのは面白い。余技のように作品を書いて来ていて、初めの頃は異国情調や宗教的色彩の濃いロマンティシズムに立つ作品であった・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ 不安だと云うのでもなく、可哀そうだと云うのでもなく、家中のどよめきに連れて只ソワソワして居た私は、深く夜着の中にもぐって居ながら、遠くの足音にも耳をすませたり、一寸人が近くまで来ると、咳払いをしたりわざと欠伸をしたりして専ら気の毒な自・・・ 宮本百合子 「追憶」
彼女は耳元で激しく泣き立てる小さい妹の声で夢も見ない様な深い眠りから、丁度玉葱の皮を剥く様に、一皮ずつ同じ厚さで目覚まされて行きました。 習慣的に夜着から手を出して赤い掛布団の上をホトホトと叩きつけてやりながらも、ぬく・・・ 宮本百合子 「二月七日」
・・・ 壁に張った絵紙を大方はその色さえ見分けのつかないほどにくすぶって仕舞って居て、片方ほか閉めてない戸棚から夜着の、汚いのがはみ出て居るわきの壁には見覚えのある高貴の御方の絵像が、黄ろく、ぼろぼろに張りついて居るのである。 家中見廻し・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・そんな風に婦人の文学的活動は生活を立てて行く社会的な問題でなく、趣味とか余技のように見られていました。一葉なんかも大変に面白いことは、一方に「たけくらべ」のような作品もありますけれども、日記を読むとなかなか気骨のある婦人でした。御承知の通り・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・私は、悦ばしく、自分の出来る限りを尽す気持で、派手になった十七八頃の銘仙衣類等を解いて、彼の使うべき夜着になおしたり何かした。 彼も来られると云う。四月の始め迄居る積りで、三月の二十日以後に此方は出発しようと云って来た。それ等のことで仕・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ お松は夜着の中から滑り出て、鬆んだ細帯を締め直しながら、梯子段の方へ歩き出した。二階の上がり口は長方形の間の、お松やお金の寝ている方角と反対の方角に附いているので、二列に頭を衝き合せて寝ている大勢の間を、お松は通って行かなくてはならな・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫