・・・彼のカルテュアは多方面で、しかもそれ/″\に理解が行き届いている。が、菊池が兄貴らしい心もちを起させるのは、主として彼の人間の出来上っている結果だろうと思う。ではその人間とはどんなものだと云うと、一口に説明する事は困難だが、苦労人と云う語の・・・ 芥川竜之介 「兄貴のような心持」
・・・どうか何事にも理解の届いた、趣味の広い女に仕立ててやりたい、――そういう希望を持っていたのです。それだけに今度はがっかりしました。何も男を拵えるのなら、浪花節語りには限らないものを。あんなに芸事には身を入れていても、根性の卑しさは直らないか・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・ 彼にはそうした父の態度が理解できた。農場は父のものだが、開墾は全部矢部という土木業者に請負わしてあるので、早田はいわば矢部の手で入れた監督に当たるのだ。そして今年になって、農場がようやく成墾したので、明日は矢部もこの農場に出向いて来て・・・ 有島武郎 「親子」
・・・ 今後第四階級者にも資本王国の余慶が均霑されて、労働者がクロポトキン、マルクスその他の深奥な生活原理を理解してくるかもしれない。そしてそこから一つの革命が成就されるかもしれない。しかしそんなものが起こったら、私はその革命の本質を疑わずに・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・相矛盾せる両傾向の不思議なる五年間の共棲を我々に理解させるために、そこに論者が自分勝手に一つの動機を捏造していることである。すなわち、その共棲がまったく両者共通の怨敵たるオオソリテイ――国家というものに対抗するために政略的に行われた結婚であ・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・ 絵そら事と俗には言う、が、絵はそら事でない事を、読者は、刻下に理解さるるであろう、と思う。「畜生。今ごろは風説にも聞かねえが、こんな処さ出おるかなあ。――浜方へ飛ばねえでよかった。――漁場へ遁げりゃ、それ、なかまへ饒舌る。加勢と来・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・それ故に椿岳の画を見るには先ずその生活を知らねばならないので、その生活を知って然る後に初めてその画の真趣を理解する事が出来る。椿岳の画の妙味はその畸行と照応していよいよ妙味を深くする感がある。十一 画人椿岳椿岳の画才及び習画・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・この貴重な秘庫を民間奇特者に解放した一事だけでも鴎外のような学術的芸術的理解の深い官界の権勢者を失ったのは芸苑の恨事であった。 鴎外は早くから筆蹟が見事だった。晩年には益々老熟して蒼勁精厳を極めた。それにもかかわらず容易に揮毫の求め・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・ほんにこの永遠という、たっぷり涙を含んだ二字を、あなた方どなたでも理解して尊敬して下されば好いと存じます。」「わたくしはあの陰気な中庭に入り込んで、生れてから初めて、拳銃というものを打って見ました時、自分が死ぬる覚悟で致しまして、それと・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・自分が子供を持ってみて、はじめて他の親たる人達の心も理解されるのです。自分の子供が可愛ければ、他の子供にもやさしくなるのは、この道理であります。 このことは、古今、東西、国を異にし、また種族を異にしても相違のある筈はないでありましょう。・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
出典:青空文庫