・・・ 真白いエナメル塗の椅子がいくつも並んだ清潔至極な理髪室がある。 大きい大きいニッケル湯沸しの横に愛嬌のいい小母さんが立って一杯三哥のお茶をのませ、菓子などを売る喫茶部は殷やかな話し声笑い声に満ちている。 体育室の設備のよさは、・・・ 宮本百合子 「ドン・バス炭坑区の「労働宮」」
・・・ ある日ゴーリキイがペテルブルグの数多い橋の一つを歩いていると、理髪屋風の男が二人づれでゴーリキイを追い越して行った。が、一人の方がびっくりしたように小声で仲間に云った。「見ろ、ゴーリキイだぜ!」 もう一人の男は立ちどまってゴー・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・或る日ゴーリキイがペテルブルグ市中の或る橋を歩いていると、理髪屋風の二人連の男がゴーリキイを追い越して行った、が、その一人の方がびっくりしたように伴れに小声で云った。「見ろ! ゴーリキイだぜ」 もう一人の男は立ち止ってゴーリキイの頭・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・そのたわけを家中の人が分別者利発人とほめる。ついに家中の十人の内九人までが軽薄なへつらい者になり、互いに利害相結んで、仲間ぼめと正直者の排除に努める。しかも大将は、うぬぼれのゆえに、この事態に気づかない。百人の中に四、五人の賢人があっても目・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫