・・・一年にいちどの逢う瀬をたのしもうとしている夜に、下界からわいわい陳情が殺到しては、せっかくの一夜も、めちゃ苦茶になってしまうだろうに。けれども、織女星も、その夜はご自分にも、よい事のある一夜なのだから、仕方なく下界の女の子たちの願いを聞きい・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・輝き渡るとは何も作家の名前が伝わるとか、世間からわいわい騒がれると云う意味で云うのではありません。作家の偉大なる人格が、読者、観者もしくは聴者の心に浸み渡って、その血となり肉となって彼らの子々孫々まで伝わると云う意味であります。文芸に従事す・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・その様子がいかにも古くさい。わいわい云ってる見物人とはまるで釣り合が取れないようである。自分はどうして今時分まで運慶が生きているのかなと思った。どうも不思議な事があるものだと考えながら、やはり立って見ていた。 しかし運慶の方では不思議と・・・ 夏目漱石 「夢十夜」
・・・見ると、五つ六つより下の子供が九人、わいわい云いながら走ってついて来るのでした。 そこで四人の男たちは、てんでにすきな方へ向いて、声を揃えて叫びました。「ここへ畑起してもいいかあ。」「いいぞお。」森が一斉にこたえました。 み・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
・・・ 赤山のようなばけものの見物は、わいわいそれについて行きます。一人の若いばけものが、うしろから押されてちょっとそのいやなものにさわりましたら、そのフクジロといういやなものはくるりと振り向いて、いきなりピシャリとその若ばけものの頬ぺたを撲・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・ 第一、今の今まで女王だとか、お前のおかげだとか、わいわい騒いでいた者達が、話せ話せと云って身の上話をさせながら、話し手が我と泣き倒れる程血の出るような事実を語っているのに、歎声一つ発しない冷淡さが事実あるだろうか。 自分達が云うだ・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・彼女のような廉直なひとに、彌次馬的なわいわい騒ぎや、女だということについての物見高さや、俄な尊敬、阿諛がうんざりであったこと、その気分からそういう形に要約された言葉の出たこともわかる。けれども、エーヴの筆がやはりその限界にとどまっていること・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
・・・そして、今わいわいいってる民衆自身が、ボルシェヴィキーには政府を組織する実力なんぞないことを知るのもよかろうさ!」 社会民主主義者連はボルシェヴィキーを自分たちと同じに考えていたんです。 われわれのところにはレーニンがいた――・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 先だって三綱橋のお祝いのときにも、佐渡の御隠居があんなにわいわい云ったって、やはり寄附金が少なかったから、見たことか、ああやって私よりは下座へ据えられて、夜のお振舞いにだって呼ばれはしない。 町会議員を息子に持っていると威張ったと・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・―― ワーニカは、わいわい云いながら入口で防寒靴をぬいでる一かたまりの男女学生の中に、見なれた円い緑色の毛糸帽を見つけた。 モスクワには、そんな緑色の帽子をかぶってる女がうんといるわけなんだが、ワーニカは、例えそれが五つかたまってた・・・ 宮本百合子 「ワーニカとターニャ」
出典:青空文庫