・・・と圭さんは話頭を転じた。「痛いに違いないね。忠告してやろうか」「なんて」「よせってさ」「余計な事だ。それより幾日掛ったら、みんな抜けるか聞いて見ようじゃないか」「うん、よかろう。君が聞くんだよ」「僕はいやだ、君が聞く・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・とシワルドは渋色の髭を無雑作に掻いて、若き人を慰める為か話頭を転ずる。「海一つ向へ渡ると日の目が多い、暖かじゃ。それに酒が甘くて金が落ちている。土一升に金一升……うそじゃ無い、本間の話じゃ。手を振るのは聞きとも無いと云うのか。もう落付い・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・○去年の春であったか、非無という年の若い真宗坊さんが来て談しているうちに、話頭はふと宗教の上に落ちて「君に宗教はいらないでしょう」と坊さんが言い出した。そこで「宗教がいるかいらないかそういう事は知らぬけれど、僕は小供のうちから宗教嫌いで・・・ 正岡子規 「病牀苦語」
・・・ 自分は重く、声高く笑い、自分には興味のない犬だの、小さい妹の稽古だののことに話頭を転じる。母親がいらぬ心痛から妙な計画でも思いついては困ると、自分は留置場の内のことについては、何一つ云わないようにしているのであった。 話しながら自・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫