・・・それによつてアメリカ人は、世界大戦の責任者をカイゼルとニイチェとの罪に帰した。 日本に於けるニイチェの影響は、しかしながら皆無と言ふ方が当つて居る。日本の詩人で、多少でもニイチェの影響を受けたと思はれる人は、過去にも現在にも一人も居ない・・・ 萩原朔太郎 「ニイチェに就いての雑感」
・・・印度の何とか称する貴族で、デッキパッセンジャーとして、アメリカに哲学を研究に行くと云う、青年に貰った、ゴンドラの形と金色を持った、私の足に合わない靴。刃のない安全剃刀。ブリキのように固くなったオバーオールが、三着。「畜生! どこへ俺は行・・・ 葉山嘉樹 「浚渫船」
・・・日本には軽井沢があり、印度にはダージーリンがあり、アメリカには、ロッキーがあった。「人間どもは、何だって、暑い暑いとぬかしながら、暑い処にコビリついているんだ。みんな足をとられてやがる。女房子に足をとられたり、ガツガツした胃袋に足をとら・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・その向うにアメリカがほんとうにあるのだ。ぼくは何だか変な気がする。海が岬で見えなくなった。松林だ。また見える。次は浅虫だ。石を載せた屋根も見える。何て愉快だろう。 *青森の町は盛岡ぐらいだった。停車場の前にはバ・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・大将「それはアメリカだ。ニュウヨウクのメリケン粉株式会社から贈られたのだ。」特務曹長「そうでありますか。愕くべきであります。」特務曹長「次はどれでありますか。」大将「これじゃ、」特務曹長「実にめずらしくありま・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・朝鮮、中国や日本のように漸々と、封建的なのこりものをすてて近代民主化を完成しようと一歩ふみ出した国。アメリカ、イギリスのように資本主義の下での民主主義を完成して更により発展した民主主義社会への見とおしにおかれている国。ソヴェト同盟のように、・・・ 宮本百合子 「合図の旗」
・・・日本やアメリカなどの若い労働者のように、半額などということはないが、それでもいくらかやすかったのを、今度は、六時間労働でも、大人なみ八時間労働とまったく同じ賃銀を払うということである。男の子も女の子も十六七になれば、食べるものも着るものも大・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・「まっぴらだ」「大丈夫よ。まだお金はたくさんあるのだから」「たくさんあったって、使えばなくなるだろう。これからどうするのだ」「アメリカへ行くの。日本は駄目だって、ウラヂオで聞いて来たのだから、あてにはしなくってよ」「それ・・・ 森鴎外 「普請中」
・・・「その武器を積んだ船が六ぱいあれば、ロンドンの敵前上陸が出来ますよ。アメリカなら、この月末にだって上陸は出来ますね。」 もう冗談事ではなかった。どこからどこまで充実した話か依然疑問は残りながらも、一言ごとに栖方の云い方は、空虚なもの・・・ 横光利一 「微笑」
・・・ではその文化の華はどうなったか。アメリカを征服したヨーロッパ人たちが、このアフリカの沿岸にも侵入し、侵入した限りは破壊し去ったのである。なぜか。アメリカの新しい土地が奴隷を必要としたからである。アフリカは奴隷を供給した。何百、何千の奴隷を、・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫