・・・然るに文学上の労力がイツマデも過去に於ける同様の事情でイクラ骨を折っても米塩を齎らす事が無かったなら、『我は米塩の為め書かず』という覚悟が無意味となって、或は一生涯文学に志ざしながら到頭文学の為め尽す事が出来ずに終るかも知れぬ。 過去に・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・たといわれわれがイクラやりそこなってもイクラ不運にあっても、そのときに力を回復して、われわれの事業を捨ててはならぬ、勇気を起してふたたびそれに取りかからなければならぬ、という心を起してくれたことについて、カーライルは非常な遺物を遺してくれた・・・ 内村鑑三 「後世への最大遺物」
・・・「愈々以て謎のようだ!」と今度は井山がその顔をつるりと撫でた。「死の秘密を知りたいという願ではない、死ちょう事実に驚きたいという願です!」「イクラでも君勝手に驚けば可いじゃアないか、何でもないことだ!」と綿貫は嘲るように言った。・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・卓子は室の中央へ引出されて、上にパンや、腸詰、イクラを盛った皿が出ていた。底にぽっちり葡萄酒の入っている醤油の一升瓶がじかに傍の畳へ置いてある。ルイコフが、彼のマンドリンと一緒に下げて来たものだ。ルイコフとマリーナはさっき大論判をしたところ・・・ 宮本百合子 「街」
・・・ 紙切れを見ては、あやしい発音でイクラを買った。漬胡瓜を買った。 ハムを買った。 黒田君の買って来た樅の木は小ぢんまり植木鉢におさまり、しかも二寸ぐらいの五色のローソクを儀式どおり緑の枝々につけている。 灯がついたら銀のピラ・・・ 宮本百合子 「モスクワの姿」
出典:青空文庫