・・・門を並べた宿坊の入口では、エプロンをかけた若い女が全く宿屋の女中然として松の樹の下を掃いたりしている。 参詣人の大群は、日和下駄をはき、真新しい白綿ネルの腰巻きをはためかせ、従順にかたまって動いているが、あの夥しい顔、顔が一つも目に入ら・・・ 宮本百合子 「上林からの手紙」
・・・ そのことを知っている農民作家は、それ故、田舎娘の赤いエプロンと、ゆっくりした碧い瞳の動き、牛の鳴声、ポプラの若葉に光るガラス玉の頸飾ばかりを書いているのではない。村のコムソモールの生活も、トラクターも書く。しかし、年とった農民がそのト・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・白エプロンに斜襷の女のひとたちの姿が現れたところ、即ちそこに戦時の気分が撒かれなければならぬようなところがある。最もいつわりのなかるべき芸術の仕事をしている女のひとの感情でさえ、たとえば近頃の岡本かの子氏の時局和歌などをよむと、新聞でつかう・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・ ○下手な絵を描いて居た女、二十七八、メリンスの帯、鼻ぬけのような声 ○可愛いセルの着物、エプロン、黄色いちりめんの兵児帯の五つばかりの娘、年とった父親がつれて来て、茶店にやすみ、ゆっくりしてゆく。かえりに、白鬚のところで見ると、こ・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ ○おへそを デンデン ○ありがとう あなとうとーのみこと ○エプロンに お月と兎ついて居 眼玉が碧い貝ボタン、その眼玉とるぞ とYいう、片手でお月さんをかくし、片手で兎の目玉かくし。あとになってもその手をはなさず「もうとり・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・ 女の子は手拭をかぶって働くまね。そのうち本当になおそうとして汗をかいてすっかり組立てた。 ―――――――――― お母さんへ! エプロンをかけてよこして下さい ズロースをはかせて下さい てぬぐいをもたせて下さい。・・・ 宮本百合子 「「乳房」創作メモ」
・・・ひろ子は、心細くなってリアカーを曳いた男と立ち話をしていたエプロン姿のお神さんに、電気熔接学校と云って訊いてみた。そこのガードをくぐって左へ出ると、ロータリーと交番があって、そこを又左へとおそわった。その辺はすっかりやけ原で、左手にいくらか・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・そして卒業後は自活のために非常に種々の職業を経験しつつ、現在では「エプロンの裾をぬらして台所にはいずり廻る仕事」をしてやっと食いつなぎながらも、猶創作の勉強を続けているという、文学のために思いきわまった一人の女の閲歴が書かれているのである。・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
三四日、風邪で臥ていた従妹が、きょうは起きて、赤い格子のエプロンをかけ、うれしそうにパンジーの鉢植をしている。 その縁側の外に立って、私はシャベルで縁の下の土を掬っては素焼の鉢にうつした。この従妹は田舎の家で土いじりの・・・ 宮本百合子 「昔を今に」
・・・にわかに家の中は色めき渡って急に夕飯のおこんだてをかえた母は白いエプロンのメイドと一所に心地よく働いています。 美くしい詩人は旅のつかれにやわらかいソファーにやわらかい光をあびて夢を見て居ります。白い頭巾のお婆さんは自分の孫の此の上なく・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
出典:青空文庫