・・・しかし、逆にまた、今の近代嬢の髪を切りつめ眉毛を描き立て、コティーの色おしろいを顔に塗り、キューテックの染料で爪を染め、きつね一匹をまるごと首に巻きつけ、大蛇の皮の靴を爪立ってはき歩く姿を昔の女の眼前に出現させたらどうであったか。やはり相当・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 玉突きをするのにキュー尻のほうを持つ手の手首を強直しないよう自由に開放することが必要条件である。手首が硬直凝固の状態になっていてはキューのまっすぐなピストン的運動が困難であるのみならず、種々の突き方に必要なキューの速度加速度の時間的経・・・ 寺田寅彦 「「手首」の問題」
・・・着なれぬ絹の袴のキュー/\となるのを着て座敷へ出た。日影が縁へ半分ほど差しこんで顔がほて/\するのは風呂に入ったせいであろう。姉上が数々の子供をつれて来る。一同座敷の片側へ一列にならんで順々拝が始まる。自分も縁側へ出て新しく水を入れた手水鉢・・・ 寺田寅彦 「祭」
前十七等官 レオーノ・キュースト誌宮沢賢治 訳述 そのころわたくしは、モリーオ市の博物局に勤めて居りました。 十八等官でしたから役所のなかでも、ずうっと下の方でしたし俸給もほんのわずかでしたが、受持ち・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ 風と海のざわめきとの間にも微かなキューキューいう規則正しい音が聞える。子供の時分ランプへ石油を注ぐ時使う金の道具があった。それを石油カンにさして細い針金を引っぱり石油をランプに汲み上げるときキューキュー一種の音を立てた。そっくりその通・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ 作者のこの気象から出る作家的な気張りは、その文章の構えかたにもあらわれ、一般読者は作中の人物、事件は何となくガラスのようで、研究材料のようだとは感じつつ、ある程度まで作者の確信や度胸で遅疑なくキューと描かれている輪廓のつよさ、鮮明さに・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・博い引例や、自在な諷刺で雄弁であり、折々非常に無邪気に破顔すると大きい口元はまきあがり、鼻柱もキューと弓なりに張っている。ひろ子は自分が美術家であったら、この、独特な、がっちりと動的に出来上った人物をどういう手法であらわすだろうと思った。一・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・私は今まで少しゆるんだ心を又キューとはって、前よりも一層つくろった憎らしいほどすました様子をしました。 その男は油ぎった何とも云われないいや味な様子をして軽いカーブを廻る時、一寸止った時、そんな時わざわざよろける様にしては私のひざを小突・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・ところでその感覚は肩から羽根を生やしたキューピットの仕業だと云う。本当かね? とんだ嘘八百だ! 青年は「男」で女が可愛い「女」だからじゃないか。生物学の仕業だ。弓の玩具なんぞふり廻してまだ一人前の男にもなってないキューピットの果して知ったこ・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫