-
・・・港口浅せたるためキールの砂利に触るゝなるべし。あまり気味よからねば半頁程の所読んではいたれど何がかいてあったかわからざりしも後にて可笑しかりける。船の進むにつれて最早気味悪き音はやんで動揺はようやく始まりて早や胸悪きをじっと腹をしめて専ら小・・・
寺田寅彦
「東上記」
-
・・・ その中は、梁や、柱や、キールやでゴミゴミしていた。そこは、印度の靴の爪尖のように、先が尖って、撥ね上っていた。空気はガットで締められていたため、数年前と些も違わないで溜っていた。そして空家の中の手洗鉢のように腐っていた。 そこは、・・・
葉山嘉樹
「労働者の居ない船」