・・・ そこへコケットのダンサーが一人登場して若い方の靴磨きにいきなり甲高なコケトリーを浴びせかける。本当の銀座の鋪道であんな大声であんな媚態を演じるものがあったら狂女としか思われないであろうが、ここは舞台である。こうしないと芝居にならないも・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・ドイツ士官が若いコケットと腕を組んで自分らの前を行ったり来たりする。女は通りがかりに自分らのほうを尻目ににらんで口の内で何かつぶやいた、それは Grob ! と言ったように思われた。四月六日 昨夜雨が降ったと見えて甲板がぬれている。・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ 顔で行かず、心で行こうという見えざるコケット ○「男は、女を愛す、と平気で云う。女だって同じと思うわ、それを何故私は男の人がすきよと云えないの、云っちゃあいけないのでしょう。」〔欄外に〕母となる性の特質、男にある浄きものへ・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
出典:青空文庫