・・・ 水っぽいサロン的常識の埒を越えないツルゲーネフのそういう考え方にトルストイが癇癪を爆発させたであろう様子を想像すると、思わず破顔さえ覚えるのである。トルストイは、食いあき飲みあき懶怠にあきた上流社会の美しく装った男女が、馬車の中で、花・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・この本は政界裏のぞき的なサロンゴシップで真にフランスの悲劇と人民の反ファシズム闘争を反映したものではなかった。一九四五年一月三十日東京に本式の空襲がはじまった。それから〔五〕月まで私の住んでいた本郷区の各所が連続的に破壊・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・彼女はバルザックをカストリィ公爵夫人のサロンに紹介し、そこに集るド・ミュッセやサント・ブウヴなど当時の著名な文学者に近づけるための努力をした。十数年後ハンスカ夫人に宛てた手紙の中でバルザックが当時の優しい回想に溺れながら述べているように、困・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ フランスはサロンと芸術の世界に婦人の解放された国として知られている。十八世紀のラファイエット夫人。ドイツのロマンチシズムをフランスに紹介しナポレオンをひどくきらったスタエル夫人。情熱的で作品の上にはっきりと婦人の社会的権利を主張したジ・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・そしてついにマリアは、実は彼女の絵の教師が貰ったサロンの金牌を、彼女へおくられたものとして持って来るモウパッサンの愛の偽りに飾られて死ぬのだが、決して、マリアが自分の最後に面した現実はこんな水っぽい、甘いものではなかった。彼女の傑作「出あい・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・エゴーの分析 リアリズム 古き十八世紀風なもの 社会的場面の描写 特にサロン スタンダールの帝政時代観 p.28 リュシアンの入った第三師団管轄区の査閲を拝命した伯爵N中将について。p.29 N伯・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
・・・はいってみると、二人の客を通すには、ちと大きすぎるサロンである。三所に小さい卓がおいてあって、どれをも四つ五つずつ椅子が取り巻いている。東の右の窓の下にソファもある。そのそばには、高さ三尺ばかりの葡萄に、暖室で大きい実をならせた盆栽がすえて・・・ 森鴎外 「普請中」
・・・ 漱石を核とするこの若い連中の集まりは、フランスでいうサロンのようなものになっていた。木曜日の晩には、そこへ行きさえすれば、楽しい知的饗宴にあずかることができたのである。が、そこにはなおサロン以上のものがあったかもしれない。人々は漱・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫