・・・ 消防自動車が出てもその場を去らず、やがて百名の警官が出動して、丸の内署長がバルコニーから演説して、やっと群集が散った後には、主を失った履ものだの、女の赤いショールだのが算を乱していたという記事は、その場に居合わせなかった私たちにも、竦・・・ 宮本百合子 「「健やかさ」とは」
・・・鉢の側――右腕に肩から白毛糸のショールを巻きつけ、仰向いた胸の上にのせた手帖へ、東洋文字を縦に書いて居る。日本女の患者の室へ、大学医科三年生が男女六人医師に引率されて入って来た。 白衣の下に女子青年共産党の服をつけた赤い顔の娘が臨床記録・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・ ○凍って歯にしむみかん ○若い芸者、金たけ長をかけ、島田、 牡丹色の半衿、縞の揃いの着物 ○寒い国の女、黒い瞼 白粉の下から浮ぐ赤い頬 ○水色、白 黒の縞になったショール ○赤い模様のつまかわ ○太鼓をたたく・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・ニーナは、寝室の下から長い防寒靴を出してはき、頭を暖かい毛のショールできっちりくるむと、雪の凍っている往来へでた。寒さでニーナの頬っぺたが忽ち赭くなる。息は白く見える。同じように白い息をはきはき、大勢の男や女が勤めへ向って急ぎ足で歩いている・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・若い女のひとはすっかりよそ行きの化粧と盛装で、白いショールをはずし、それを両手にからみつけるように持って立ち、「何がよろしいんでしょうねえ、何でもいいっておっしゃるんですよ」と、ものを書いている主人に、馴れない、すがりつくような様子・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・と云い、本包みとショールをそこへ置いた。「何かと思っちゃった」 神さんは、男の児みたいな藍子の様子にふっと笑いながら座布団を出して来た。「誰です? そのお客さん」「それがね、千束から来た方なんですよ、女の人は来ていないか・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・母親はそうっと自分のもって居たやわらかい絹のショールをかけてつまさき立てて部屋を出ました。詩人が星の様な目を見開いた時にはもう台所から肉をむす湯気が立ちのぼって居る時でした。自分の体にかけられたショールを見それから昨夜の事から今までの事まで・・・ 宮本百合子 「無題(一)」
・・・これらの女はみな男よりも小股で早足に歩む、その凋れたまっすぐな体躯を薄い小さなショールで飾ってその平たい胸の上でこれをピンで留めている。みんなその頭を固く白い布で巻いて髪を引き緊めて、その上に帽子を置いている。 がたがた馬車が、跳ね返る・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・美を装い艶を競うを命とする女、カラーの高さに経営惨憺たる男、吾人は面に唾したい、食を粗にしてフェザーショールを買う人がある。家庭を破壊してズボンの細きを追う人がある。雪隠に烟草を吹かし帽子の型に執着する子供を「人」たらしむべき教育は実に難中・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫