・・・ ガラス戸をあけて入ったところは広く、左手に鎌と槌を様式化したスタンドがあり国立出版所が本を売っている。 もう一重ガラス戸。 奥は廊下だ。工業化公債募集のビラ。会議の布告。国防飛行協会クラブ主催屋外音楽会の広告ベンチがいくつも壁・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ペルシア行汽船の埠頭などがあり、暑いところのためか、あっちにもこっちにも派手な水色、桃色に塗ったビール・スタンド、泉鉱飲料店を出している。海面に張り出して、からりとした人民保養委員会のレストランなども見えているが、どういう訳か遊歩道には前に・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ 夕方の六時、シェードのないスタンドの光を直かにてりかえす天井を眺めつつ口をあいて私はYにスープをやしなって貰って居る。 わきの寝台に腰をかけ、前へ引きよせた椅子の上に新聞をひろげ、バター、キューリ、ゆで卵子二つ、茶でファイエルマン・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・ ややしばらく立って目をさました時躰に羽根布団がかけられてわきに電気のスタンドがふくれた色にともって居た。 顔を手の甲でこすりながら不精らしく身動きをして、女中の名を呼んだ。 まあ御目覚めなさいましたねえ。と大きな声・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ 寝室にはスタンドがあるし、それで暗すぎるなら、食堂にだって、その次の部屋にだって、いくらでも電気がつくのに、何もわざわざ此那所までえっちらおっちら持ち出さないでもすむにきまって居る。 小さいと云ってもかなり持ち重りのするものを、母・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・ 彼女は家事の一切を引きうけて台所の世話から客のもてなしから朝からせわしくとっと、とっとと働きながら、夜は、疲れた看護婦と母を少しなりとも休ませるために四時位までずつうす赤いスタンドの下に本を並べて起きました。 ほんとうにこの一週間・・・ 宮本百合子 「二月七日」
・・・今に起きて仕事をしようと思って点けっぱなしにして置いたスタンドの緑色が動かず静かに枕元に灯っている。 夢の中で或る間隔を置いて並んで横になっていた私に感じられていた宮本の体の量感が、さめてのちもはっきりと私の横に残っている。深夜の天井を・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・それからインクスタンドの下の方にゴトゴトになってたまって居るのでペンが重くってしようがないんで、気がついたらもう一寸もいやになったんでまだ一寸あったのをすててしまってきれいに水であらって、丸善のあの大きな□□(のびんから小分をしてペンをひた・・・ 宮本百合子 「日記」
・・・ 風呂へ入って、お文ちゃん先へ床につき、自分蚊帖の外へスタンドを引よせ――妙ね、独りになると、皆あれをするのね――ぼんやり、奇麗な蚊帳を見ながら、長く、長く起きて居た。鼠がひどくあばれる。…… ねえ、もやーさん。今度もやーさん出かけ・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・東京の円タクはガソリン・スタンド廃業というようなことがある位で一日二ガロン半とかも手に入りにくい時があるらしいが、あちらはどうやらやりくっているから助ります。 今年の冬から、日本じゅうお米が七分搗になります。ビルディングの暖房もずっと減・・・ 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
出典:青空文庫