・・・まあそういうような時代を貴方がたが想像したら、随分乱暴な奴が沢山おったということが御分りになるでしょうが、実際今よりも悪い悪戯な奴が沢山おった。ストーブをドンドン焚いて先生を火攻にしたり、教場を真闇にして先生がいきなり這入って来ても何処も分・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
・・・(急いで下りるつもりで砂をふみ外して真逆様 * * * * * 目を明いて見ると朝日はガラス戸越しに少しくさし込んで、ストーブは既に焚きつけてある。腰の痛み、脊の痛み、足の痛み、この頃の痛みというものは身動・・・ 正岡子規 「初夢」
・・・火がないので、真黒にむさくるしいストーブを見ながら、頬杖をついて、私はもう随分さっきから置いてきぼりにされた様な様子をして居る。 この頃漸々、学校の休になって、長い間かかって居たものを二三日前に書きあげたけれ共、それにつける丁度いい題に・・・ 宮本百合子 「草の根元」
・・・ローザというのがラスキンの愛した女のひとであったそうで、ストーブのれん瓦にも、盛花にもバラ、バラ、バラ。よく私が服のかり縫いに行ったところが、どこやら面影をとどめながらそのラスキンハウスになっているから、この間父、スエ子づれで行ったら何だか・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 着物を着かえて食堂に行くと一しきり、皆があたったらしいストーブの火が、もう消えかかってくすぶって居る。 牛乳を一杯飲んで雑誌を読んで居ると母はもうすっかり仕度をしてしまって大きな包をもって、「一寸行って来るからねと云って前・・・ 宮本百合子 「午後」
・・・ なぜなら、恋愛問題だけをきりはなし、例えば正月、炬燵にあたったり、ハイカラなら、電熱ストーブにでもあたりながら、「ねえ、今度恋愛するとしたら、どんなのしたい?」「さあ」「婦人公論の新年号みた? あるわよ、いろんなのが……」・・・ 宮本百合子 「ゴルフ・パンツははいていまい」
・・・ 冬の始め、寒さの威脅を感じ、私共は一つの小さい石油ストーブを買った。夜など部屋から部屋へ移る時、それを点し、提灯がわりにもして下げて行く。石油ストーブというものは、然し、何だか侘しい性質のものだ。点けると当座はぽーっと直ぐ部屋が暖まる。少・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・第四、大きい卓子を置き、傍に瓦斯ストーブ、コンロ、アメリカ辺でやっているように、平常は調理台に使う卓子の、上板をはねると、洗濯桶になっているのも、重宝でしょう。この卓子の横に、蝶番で倒れる、火のし台をつける。冷蔵庫、野菜貯蔵箱な・・・ 宮本百合子 「書斎を中心にした家」
・・・奥に家族の寝台がある土間に床几と卓を並べ、燻る料理ストーブが立っているわきの壁に、羊の股肉とニンニクの玉とがぶら下っている。そういう風なのである。 バクー名所の一つである九世紀頃のアラビア人の防壁を見物して、磨滅した荒い石段々を弾む足ど・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ 彼女はその様子に一層気のたるんだのを感じながら、ストーブの石炭からポッカリ、ポッカリ暖い焔の立つ広い部屋の裸の卓子に向い合ってまじまじと座って居ました。 外の雪の音は厚い硝子に距てられて少しも聞えません。 非常に静かな部屋の中・・・ 宮本百合子 「二月七日」
出典:青空文庫