・・・そのことをいうと、「ズルチンつこてまんねン。五円で砂糖つこたら引き合えまへん。こんなちっちゃな餅でも一個八十銭つきまっさかいな。小豆も百二十円になりました」 京都の闇市場では一杯十円であった。「あんたとこは昔から五割安だからね」・・・ 織田作之助 「神経」
・・・砂糖代りのズルチンを入れた紅茶を持って来たのである。「夜中におなかがすいたら、水屋の中に餅がはいってますから……」勝手に焼いて食べろ、あたしは寝ますからと降りて行こうとするのを呼び停めて、「あの原稿どこにあるか知らんか。『十銭芸者』・・・ 織田作之助 「世相」
・・・長女のマサ子も、長男の義太郎も、何か両親のそんな気持のこだわりを敏感に察するものらしく、ひどくおとなしく代用食の蒸パンをズルチンの紅茶にひたしてたべています。「昼の酒は、酔うねえ。」「あら、ほんとう、からだじゅう、まっかですわ。」・・・ 太宰治 「おさん」
出典:青空文庫