・・・私は、これより数段、巧みに言い表わされたる、これら諸感情に就いての絶叫もしくは、嗄れた呟きを、阪東妻三郎の映画のタイトルの中に、いくつでも、いくつでも、発見できるつもりで居る。殊にも、おのが貴族の血統を、何くわぬ顔して一こと書き加えていたと・・・ 太宰治 「狂言の神」
・・・A life for a life というタイトルが出たから映画師が殺されるかと思ったら、そうでなくてやはりライオンが一匹やられるのである。しかしライオンなどは少しも芝居しないから愉快である。ライオンが自動車のタイアを草原に見いだして前足で・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・かえって、下手な活弁を労したり、不つりあいな日本文字のサイドタイトルなどをつけられるよりも、ただそのままにわからぬ言葉を聞くほうがはるかにパリの真実、日本人の見たパリの真実がよくわかるのではないか。それがわかるようにするところに作者の人知れ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・ 映画のタイトルに相当する詞書の長短の分布もいろいろ変化があって面白く、この点も研究に値いする。 二つのクライマックスの虐殺の場がかなり分析的にコマ数を多くして描写されている。展覧会場では、この二つの頂点の処の肝心な数コマが白紙で蔽・・・ 寺田寅彦 「山中常盤双紙」
・・・日本のタイトルは何という名であったろうか。それなどは、リリアン・ギッシュの持味として演技の落付き、重々しい美はあったがシナリオ全体としては従来の「支那街」の概念から一歩も脱していなかった。東洋のグロテスクな美、猟奇心というものが主にされてい・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・ 先日、私が林町に行った時、母が突然「百合ちゃんもタイトルでもとるといいね。」と云われた。 自分は寧ろ驚き、同時にひどく不快を感じて「何故? 学者と芸術家とは異うことよ。芸術家は学者以上と云えてよ一方から見ると。学者には学ん・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・入って見たら、タイトルは英語だ。しかも、フランスは旧教の国だから、「アジアの嵐」のなかの最も皮肉で愉快な場面、よだれをたらした赤坊のラマに帝国主義国の将軍が勲章をつけてお辞儀したり、おべっかつかったりする場面、反宗教的な場面をあらかた切って・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
出典:青空文庫