・・・「さあ、お前はお湯へいっておいでよ、その間にチャンとしておくから。 手拭と二銭銅貨を男に渡す。片手には今手拭を取った次手に取った帚をもう持っている。「ありがてえ、昔時からテキパキした奴だったッケ、イヨ嚊大明神。と小声で囃して・・・ 幸田露伴 「貧乏」
此処を出入りするもの、必ずこの手紙を読むべし。 君チャンノオ父ッチャハ、工場デヤスリヲトイデイルウチニ、グルグルマワッテ居ルト石ガカケテトンデキテ、ソレガムネニアタッテ、タオレテ家ヘハコバレテキタノ。オイシャハ氷デ・・・ 小林多喜二 「テガミ」
・・・扉が小さい室に風を煽って閉まると、ガチャン/\と鋭い音を立てゝ錠が下り、――俺は生れて始めて、たった独りにされたのだ。 俺は音をたてないように、室の中を歩きまわり、壁をたゝいてみ、窓から外をソッと覗いてみ、それから廊下の方に聞き耳をたて・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・「あなたは、クリスチャンですか。」「教会には行きませんが、聖書は読みます。世界中で、日本人ほどキリスト教を正しく理解できる人種は少いのではないかと思っています。キリスト教に於いても、日本は、これから世界の中心になるのではないかと思っ・・・ 太宰治 「一問一答」
親という二字と無筆の親は言い。この川柳は、あわれである。「どこへ行って、何をするにしても、親という二字だけは忘れないでくれよ。」「チャンや。親という字は一字だよ。」「うんまあ、仮りに一字が三字であってもさ。」・・・ 太宰治 「親という二字」
・・・たおしゃべりはじめて、千里の馬、とどまるところなき言葉の洪水、性来、富者万燈の御祭礼好む軽薄の者、とし甲斐もなく、夕食の茶碗、塗箸もて叩いて、われとわが饒舌に、ま、狸ばやしとでも言おうか、えたい知れぬチャンチャンの音添えて、異様のはしゃぎか・・・ 太宰治 「創生記」
・・・黒田はこの児を大変に可愛がってエンチャン/\と親しんでいた。父親が金をこしらえあげた暁にこの児の運命はどうなるだろうかと話し合った事もある。 ジュセッポの家で時ならぬ嵐が起って隣家の耳をそばだてさせる事も珍しくない。アクセントのおかしい・・・ 寺田寅彦 「イタリア人」
・・・同様に映画においても、たとえば単調なる「チャンバラ」の場面はいくら続いても、それは結局ただ一つのショットとしての効果しかない。これに反してたとえ識閾の上では単調な画面を繰り返していても、その底を流れる情緒の加速運動があれば観客は知らず知らず・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・また女の捨てばちな気分を表象するようにピアノの鍵盤をひとなでにかき鳴らしたあとでポツンと一つ中央のCを押すのや、兵士が自分で投げた団扇を拾い上げようとしてそのブルータルな片手で鍵盤をガチャンと鳴らすのや、そういう音的効果もあまりわざとらしく・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 浅草の興行街には久しく剣劇といいチャンバラといわれた闘争の劇の流行していたことは人の記憶している所である。博徒無頼漢の喧噪を主とした芝居で、その絵看板の殺伐残忍なことは、往々顔を外向けたいくらいなものがあった。チャンバラ芝居は戦争後殆・・・ 永井荷風 「裸体談義」
出典:青空文庫