・・・ この芸術に専念する力を阻止するもの、今それをデリケートな問題として見るならば、生理的方面からは、女の持った細かい神経の動きが、生活感情に影響することによって、その時々の生活感情に捉われ易いことです。これは男よりも女の方が細かく、正直に・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・ 勿論我々のトランクの中に そのデリケートにして白い東方の食料品は入れられてない。自分は青葱入のオムレツをたべて恢復した。零下十五度のモスクで牝鶏は卵を生まない。――から木箱に入った卵が来る。 一年目に又病って、今思い出すものは日本・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・ 千世子はいつの間にか大変デリケートな気持になって居た。 も一度心の中で繰り返した。「タンポポだってフワフワ毛になるに間もありますまい。」 そしてそのかなり調子のなだらかな言葉を自分の髪の中に編み込む様に耳を被うてふくれた髪・・・ 宮本百合子 「蛋白石」
・・・その、デリケートな葉が黒く浮立ち、華やかな彼方の色彩に黒レースをかけたように優雅である。 まつを、いつまでも止めて置くことは出来ないので、我々の夕飯の仕度に鰻を云いつけさせて、帰した。 急に四辺が、ひっそりとする。 自分は思わず・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ 気の勝った理智的でまた一方に非常にデリケートである彼が家族中での被注目者であった事は勿論です。 食後等はよくその頓智の利く「おどけ」で家中が笑わされました。 兄姉達は皆彼を愛し尊がって居るのですから今度の病気がどんなに多くの頭・・・ 宮本百合子 「二月七日」
・・・現にサント・ブウヴなども外国にまで高まったバルザックの名声に関して、如何にもデリケートに皮肉な言いまわしで解釈をほどこしている。バルザックがヴェニスやハンガリー、ポーランドやロシアなどで熱烈に愛読され、社交界の貴婦人、紳士がバルザックの作品・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 斯様な、デリケートなことは、仮令一日一晩、私が泣き明したとて、一時に、どうなるものでもない。 此事を話した時にも、自分は胸に迫り、涙を流さずに居られなかった。 どちらもいとしいのだから、どちらも仲よく、心を開いて打ちとけて欲し・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・吉川氏でさえその場へ行って見ていれば祖界間のデリケートな関係を反映して、文章の表現にも誇張的な日頃の持味を制している。林房雄氏あたりが「いのち」というような紙面で、ソ連を相手に見立てて盛な身振りをしていることなど、氏が褒めて欲しいところが案・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・彼にとっては演技は Sharp, detached, yet always delicate movement である。独特な所もなければ新しい所もない。全力を集中した技巧に過ぎない。すべてレトリック、すべて外形的。彼の情熱は緩き音楽の調子・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
・・・おしろいの塗り方も髪の結いぶりも着物の着こなしもすべて隙がない。delicate な印象を与え清い美しさで人を魅しようとする注意も行きわたっている。しかもそこにすべてを裏切るある物の閃きがある。人は密室で本性を現わす無恥な女豚を感じないでは・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫