・・・ わたくしは大急ぎでネクタイを結んで新らしい夏帽子を被って外へ出ました。わたくしどもがこの前別れたところへ来たころは丁度夕方の青いあかりが、つめくさにぼんやり注いでいて、その葉の爪の痕のやうな紋も、もう見えなくなりかかったときでした。フ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・ ずっと入って行くと、玄関のところで赤いネクタイをつけた可愛いピオニェールの少女と少年が声をそろえて嬉しそうに、「あ、来た、来た!」 そして、こっちへかけ出してきました。「こんにちは!」「こんにちは! あなたがたでしょう・・・ 宮本百合子 「従妹への手紙」
・・・自分は赤いスウェターを着る。ネクタイの先のほつれたのを縫ってあげる。 十二日 博物館、展覧会、活動、 十四 グランパに招かれて若松から、リデムプションを見る。 十五 未来の仕事についての議論 十六 第三・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・ 赤いネクタイのロシア人のピオニェールが歩いてく後から、日本の木綿縞の長ドテラを引っかけたような装のウズベーク人が、長靴でノシノシやって来る。 長い下髪を赤い布で飾った小柄な女は馬乳で有名なクルムィク人の婦人代表だ。 颯っと短い・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ 日本のこの留置場の有様が、そうやって革命博物館の内にそっくり示される時が来たら、赤いネクタイを首にかけたピオニェールたちが、どんなにびっくりして、その不潔、野蛮な様子を押し合って眺めるであろう! その日のためにも、自分は書いて置く・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ピオニェールが赤いネクタイをひらひらさせて通る。もちろんいかさま野師もその間を歩いては行くのだが、目につくのは並木のはてまで子供、子供だ。アルバートのゴーゴリ坐像の膝があいているのが不思議ぐらいな賑いである。 ソヴェト市民の大部分は日本・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ 演壇に吸いよせられ非常にいきいき反応しつつもう始って三時間近くなるだろう演説をきいてるのは、いわゆる自覚ある労働者、三月八日の女主人、労働婦人及赤ネクタイをつけた彼等の前衛的後継者たちばかりではない。 細い亜麻色のお下髪を小さい背中に・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・学生服や開襟シャツに重ねた仕事着姿の被告たちにまじって、ただ一人きちんとネクタイをつけ上着のボタンをかけた背広服姿の竹内被告が、腹の下に両手をくみ合わせ、やや頭を左に傾けた下眼づかいに正座している当日の彼の写真は、全身の抑制された内向的な表・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・そこへ来かかったのは、太った体にガウンをゆさゆさと着、胸に白ネクタイを下げた学生監並にシルクハットにフロック、コオトのブルドック二人である。漫画の題はTRAPPED、大学スケッチ第八。 書簡註。夜の歩道。一人の学生が巡・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・背広で、ネクタイをつけ、カンカン帽をかぶった四十男が運転台にいる。見馴れぬ妙な眺めだ。 坂の下り口にかかると、非常に速力をゆるめ、いかにも、曲り角などの様子を気遣う工合でそのバスが行ってしまうと、いれ違いに、一台下から登って来た。 ・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
出典:青空文庫