・・・各種の動力を運ぶ電線やパイプやが縦横に交差し、いろいろな交通網がすきまもなく張り渡されているありさまは高等動物の神経や血管と同様である。その神経や血管の一か所に故障が起こればその影響はたちまち全体に波及するであろう。今度の暴風で畿内地方の電・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・おまけに所々に蒸気機関があり、そのスチームパイプが何本も通っているのである。坑夫等はもちろん裸体で汗にぬれた膚にカンテラの光を無気味に反映していた。坑内では時々人殺しがある。しかし下手人は決して分らない。こんな話を聞かされたりして威されてい・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・鏝で勢いよくきゅうとなでて、ちりちりぱっとくくりをつけて、パイプをくわえて考え込んで、モンパリー、チッペラリー、ラタヽパン。そこでノアルで細筆のフランス文字、ブルバールデトセトラ。 四 脚は一八〇プロセントく・・・ 寺田寅彦 「二科狂想行進曲」
・・・ そのうすくらい仕事場を、オツベルは、大きな琥珀のパイプをくわえ、吹殻を藁に落さないよう、眼を細くして気をつけながら、両手を背中に組みあわせて、ぶらぶら往ったり来たりする。 小屋はずいぶん頑丈で、学校ぐらいもあるのだが、何せ新式稲扱・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・ 良人は、ひろい背中を細君の方へ向け、脚をひらいて廊下に立ちパイプをふかしながら、 ――エピソードさ。 そういう返事をしている。 蒙古人の村はどこでも犬が多いな。――…… 列車は修繕のために二時間以上雪の中にとまっていた・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・事務所のわきにフォードの幌形自動車がとまって、踏段に片足かけ、パイプをほじっているのは、縞シャツのアメリカ技師だ。洒落た鎌と槌との飾りをつけた小屋に、国立出版所の売店が本をならべている。―― 大体ソヴェト同盟の五ヵ年計画は、いろいろと予・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・何という名か、そして何に使われるものかわからないガラスのくねった長いパイプが上の棚から下っている。透明なかげを投げあっているガラスどもの上に、十月下旬の午後の光線がさしていた。武蔵野の雑木林のなかに建てられている研究所は自然の深い静寂にかこ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・笑った彼女の口元からちらりと金歯の光ったのや、硝子ケースの中にパイプや葉巻の箱を輝やかせている日光が、いかにも春めいた感じを藍子に与えた。「おいでですか?」「ええ、今日はいらっしゃいますよ、さあどうぞ」 店の横にある二畳から真直・・・ 宮本百合子 「帆」
・・・ この裏から東端唯一の大公園ヴィクトリア公園がひろがっている。 公園には樹があった。 樹は青い。樹の下にベンチがあった。両肱の間へ頭を挾んでベンチへまるまって寝ている男がある。 パイプのない口をぼんやりつぼめて、爺が地べたを・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫