・・・覚醒昂奮剤のヒロポンを打とうとしたのだ。最近まで新吉は自分で注射をすることは出来なかった。医者にして貰う時も、針は見ないで、顔をそむけていたくらいである。ところが、近頃のように仕事が忙しくて、眠る時間がすくなくなって来ると、もうヒロポンが唯・・・ 織田作之助 「郷愁」
・・・覚悟をきめてからは、毎晩徹夜でこの小説に掛りきりで、ヒロポンを注射する度数が今までの倍にふえた。何をそんなに苦労するかというと、僕は今まで簡潔に書く工夫ばかししていたので一回三枚という分量には困らぬはずだったのに、どうしても一回四枚ほしい。・・・ 織田作之助 「文学的饒舌」
その男は毎日ヒロポンの十管入を一箱宛買いに来て、顔色が土のようだった。十管入が品切れている時は三管入を三箱買うて行った。 敏子は釣銭を渡しながら、纒めて買えば毎日来る手間もはぶけるのにと思ったが、もともとヒロポンの様な・・・ 織田作之助 「薬局」
出典:青空文庫