・・・ 荒物屋駄菓子屋の店先に客引きの意味でかかっている写真の顔が新聞やビラの広告に頻繁に現われる。聞いてみるとそれがみんな活動俳優のいわゆるスターだそうである。幕末勇士などに扮した男優の顔はいかなる蛮族の顔よりもグロテスクで陰惨なものである・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・おそらく途中の本屋の店先かあるいは電柱のビラ紙かで、ちらと無意識に瞥見したかあるいは思い浮かべたこの文字が、識域のつい下の所に隠れていて、それが、この時急に飛び出して来たのかもしれないと思う。もっともそれにしたところで、広瀬中佐の銅像を見て・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・そうでなければ宣伝ビラの印刷費用だけでもかえって濫費になる勘定である。この度の節約日の効果は日が経ってみなければ分るまいが、私はこういう「日」の必要自身が既に結果の失敗を保証するように思われて仕方がない。 それはとにかくこの種の色々の「・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・しかしこれらの大多数は十日ぐらい前からプログラムの作れぬものでもなし、またそうでなくても適当な掲示やビラによって有効に知らせる事ができる。一般の人々が毎朝起きて床の中でいながらに知らなければならない性質の事でもない。そういう刺激の目にふれな・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・オペラ、芝居、それから学生見学団のビラなどが貼ってあった。十時頃にはよく玄関でシンケン・ブロートの立喰いをしながらそんなビラを読んでいる連中がいた。林檎の皮ごとぼりぼりかじり歩いている女学生も交じっていた。 プランクやシュミットの講義は・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・はこの薬売り自身をさすのではなくて、薬売りの配って歩く広告のビラ紙のことである。この人間の「本家」がまき歩くビラの「ホンケ」は、鼻紙を八つ切りにしたのに粗末な木版で赤く印刷したものであったが、その木版の絵がやはり蝙蝠傘をさして尻端折った薬売・・・ 寺田寅彦 「物売りの声」
・・・すると一軒の絵双紙屋の店前で、ひょッと眼に付いたのは、今の雑誌のビラだ。さア、其奴の垂れてるのを一寸瞥見しただけなんだが、私は胸がむかついて来た。形容詞じゃなく、真実に何か吐出しそうになった。だから急いで顔を背けて、足早に通り抜け、漸と小間・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・ところが、船の中でこそ、遇然トルコ人六人とも知り合いになったようなもの、実際トリニテイの町に下りて見ると、どこにもそんなビラが張ってあるでもなし、ヒルテイという名を云う人も一人だってあるでなし、実は私も少し意外に感じたので〔以下原稿数枚なし・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・翌朝十時までに必要に応じた詩・論文・スローガン・ビラなどを芸術的作品にまとめて出さなければならないというわけである。 規定通り、作品は集った。これらの作品が研究された。討論会が持たれた。どの作品も仮定された軍事行動の階級的本質については・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・と一枚のビラをよこした。共青指導部の署名で出された、赤色メーデーを敢行せよ! というビラである。「そういうものが、こっちの方へ却って早く入るんだから妙でしょう」 狡い、ひひという笑いかたで太い首をすくませた。「マァ、この懸け・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫