・・・「お留守のあいだに、ピストル強盗がはいったら、どうしよう。」 と私は笑いながら、そう言いますと、「強盗に申し上げたらいいさ、あたしの亭主は気違いですよ、って。ピストル強盗も、気違いには、かなわないだろう。」 旅に反対する理由・・・ 太宰治 「おさん」
・・・女房コンスタンチェが決闘の前夜、冷たいピストルを抱いて寝て、さてその翌朝、いよいよ前代未聞の女の決闘が開始されるのでありますが、それについて原作者 EULENBERG が、れいの心憎いまでの怜悧無情の心で次のように述べてあります。これを少し・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・太夫は、おのが身をまもるため、ピストルをポケットに忍ばせていた。 太宰治 「逆行」
・・・モラルなんて無いんだ。ピストルが欲しいな。パンパンと電線をねらって撃つと、電線は一本ずつプツンプツンと切れるんだ。日本は、せまいな。かなしい時には、素はだかで泳ぎまくるのが一番いいんだ。どうして悪いんだろう。なんにも出来やしないじゃないか。・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ちょっとしたけんかはあるがそれもシャボン玉のようなけんかである。ピストルも一発だけ申し訳にぶっ放すが結果は街燈を一つシャボン玉のようにこわすだけである。この映画の中に現われている限りの出来事と達引とはおそらくパリという都ができて以来今日に至・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・踊り場でピストルをひねくり回し、それを取り上げられて後にまた第二のピストルをかくしに探るところなどは巧みに観客を掌上に翻弄しているが、ここにも見方によればかなりに忠実な真実の描写があり解剖がありデモンストラチオンがある。やはり一つのおもしろ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・二度目の殺人など、洗面場で手を洗ってその手をふくハンケチの中からピストルの弾を乱発させるという卑怯千万な行為であるにかかわらず、観客の頭にはあらかじめ被殺害者に対する憎悪という魔薬が注射されているから、かえって一種の痛快な感じをいだかせ、こ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・こういう例はあげれば際限なくあげられるかもしれないが、しかし概して自動車の音、ピストルの響きの紋切り形があまりにうるさく幅をきかせ過ぎて物足りない。ほかにいくらでもいいものがあるのを使わないでいるような気がする。試みに自動車とピストルとジャ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・ 戦争後に流行した茶番じみた滑稽物は漸くすたって、闇の女の葛藤、脱走した犯罪者の末路、女を中心とする無頼漢の闘争というが如きメロドラマが流行し、いずこの舞台にもピストルの発射されないことはないようになった。 戦争前の茶番がかった芝居・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・ 棍棒は、剣よりもピストルよりも怖れられた。 生活は、農民の側では飢饉であった。検挙に次ぐ検挙であった。だが、赤痢ででもあるように、いくら掃除しても未だ何か気持の悪いものが後に残った。「こんな調子だと、善良な人民を監獄に入れて、・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
出典:青空文庫