・・・「だってフランは暴落するしさ」「それは新聞を読んでいればね。しかし向うにいて見給え。新聞紙上の日本なるものはのべつ大地震や大洪水があるから」 するとレエン・コオトを着た男が一人僕等の向うへ来て腰をおろした。僕はちょっと無気味にな・・・ 芥川竜之介 「歯車」
・・・ 私は半月余り前、フランテンの欧洲航路を終えて帰った許りの所だった。船は、ドックに入っていた。 私は大分飲んでいた。時は蒸し暑くて、埃っぽい七月下旬の夕方、そうだ一九一二年頃だったと覚えている。読者よ! 予審調書じゃないんだから、余・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・六十万円といったならそのころのフランドンあたりでは、まあ第一流の紳士なのだ。いまだってそうかも知れない。さあ第一流の紳士だもの、豚がすっかり幸福を感じ、あの頭のかげの方の鮫によく似た大きな口を、にやにや曲げてよろこんだのも、けして無理とは云・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
一九一四年の夏は、ピエール・キュリー街にラジウム研究所キュリー館ができ上ってキュリー夫人はそこの最後の仕上げの用事と、ソルボンヌ大学の学年末の用事とで、なかなか忙がしかった。フランスの北のブルターニュに夏休みのための質素な・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
・・・マルクスは、ホーマア、シェクスピア、ゲーテなどと共にバルザックの作品を愛好したのであったが、それは全くこの偉大な十九世紀の作家が「フランスの社会の最も素晴らしいリアリスティックな歴史を与えている」からであり、資本論の或る箇所では当時の読者に・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
一、リュシアン ソレルとは全くちがったリュシアン・ルーヴェン。一八三二年六月五日、六日ラマルク将軍の葬式に際し60フランかせぎたい 一個人間として自信をもちたい)○リュシアンはナンシーにゆく。陰気で保守的な反政府・・・ 宮本百合子 「「緑の騎士」ノート」
・・・ソヴェトの婚姻法。フランスにおける内縁問題。結婚優生学。これらの各項をそれぞれの専門家が執筆している。第二巻法律篇は、婚姻法概論からはじまって、妻の無能力。内縁。国際婚姻法。最後に民法改正要綱解説として、穂積重遠博士が序言及び婚姻を執筆して・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・キョトキョト声で、のべつに読みあげた――『ゴーデルヴィルの住人、その他今日の市場に出たる皆の衆、どなたも承知あれ、今朝九時と十時の間にブーズヴィルの街道にて手帳を落とせし者あり、そのうちには金五百フランと商用の書類を入れ置かれたり。拾い・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・つくりつけの木の腰掛は、「フランケット」二枚敷きても膚を破らんとす。右左に帆木綿のとばりあり、上下にすじがね引きて、それを帳の端の環にとおしてあけたてす。山路になりてよりは、二頭の馬喘ぎ喘ぎ引くに、軌幅極めて狭き車の震ること甚しく、雨さえ降・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫