・・・満洲に派遣されている軍隊と、支那に派遣されている軍隊は植民地満洲、蒙古をしっかりと握りしめるために番をさせられているのだ。ブルジョアの所有である満鉄の番をさせられるために派遣されているのだ。そして、満洲、支那に於ける中国人労働者及び鮮人労働・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・ 日本の近代文学は、ブルジョア文学も、そして、プロレタリア文学も農民の生活に対する関心の持ち方が足りなかった。農民をママ子扱いにしていた。 なる程、農民の生活から取材した作品、小作人と地主との対立を描いた作品、農村における農民組合の・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・ 戦争反対の文学は、かなり昔から存在して居るが、ブルジョアジーの戦争反対文学と、現代プロレタリアートの戦争反対文学とは、原則的に異ったものを持っている。戦争反対の意図を以て書かれたものは、古代ヘブライの予言者マイカのものゝ中にもある。民・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・勿論、自然主義文学運動は、ブルジョア生産関係の反映として、「在るがまゝに現実を描き出すこと」「科学的精神」「客観描写」「現実曝露」等、ブルジョアジーがその生産方法の上に利用した科学の芸術的反映として、ブルジョア社会建設のために動員され、そし・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・それに、いまでは、ブルジョアイデオロギーの悪徳が、かつての世の思潮に甘やかされて育った所謂「ブルジョア・シッペル」たちの間にだけ残っているので、かえって滅亡のブルジョアたちは、その廃頽の意識を捨てて、少しずつ置き直っているのではないか。それ・・・ 太宰治 「花燭」
・・・私は、自分が極貧の家に生れて、しかも学歴は高等小学校を卒業したばかりで、あなたが大金持の(この言葉は、いやな言葉ですが、ブルジョアとかいう言葉は、いっそういやですし、他に適切な言葉も、私の貧弱な語彙を以華族の当主で、しかもフランス留学とかの・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・はじめの感想文は、あれは、支那のブルジョア雑誌から盗んだものだが、岩の上の場面などは僕が書いた。息もつかせぬ名文章だったろう。これから、一時間、文士になろうかどうか思い迷ってみることにする。失礼。おからだ気をつけて。こんどの日曜日に行く。う・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 私はたびたび留置場にいれられ、取調べの刑事が、私のおとなしすぎる態度に呆れて、「おめえみたいなブルジョアの坊ちゃんに革命なんて出来るものか。本当の革命は、おれたちがやるんだ。」と言った。 その言葉には妙な現実感があった。 のち・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・「どうぞ。」 実に優しかった。 私は呆れて噴き出した。佐伯も、私の気持を敏感に察知したらしく、「ディリッタンティなんだ。」と低い声で言って狡猾そうに片眼をつぶってみせた。「ブルジョアさ。」 私たちは躊躇せず下宿の門をくぐり、・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・「あなたは、ばかなの?」「およしよ、K。ばかも悧巧もない。僕たちは、もっとわるい。」「教えて!」「ブルジョア。」 それも、おちぶれたブルジョア。罪の思い出だけに生きている。ふたり、たいへん興ざめして、そそくさと立ちあがり・・・ 太宰治 「秋風記」
出典:青空文庫