・・・ドンな場合でも決して屈することのないプロレタリアの剛毅さからくる朗かさが、その言葉のうちに含まさっているわけだ。然し、そればかしでなしに、俺だちにとっては本来の意味――いわばブルジョワ的な「休息」という意味でも、此処は別荘であるということを・・・ 小林多喜二 「独房」
・・・だから、プロレタリアの解放のために仕事をやって行こうとするお前たちのことが分るのだが、何んだか自分の楽しい未来のもくろみが、そのためにガタ/\と崩されて行くのを見ていることが出来ないのだよ。こんな気持をもっているから、警察ではお前の母は一番・・・ 小林多喜二 「母たち」
・・・三郎はまた三郎で、出足の早い友だち仲間と一緒に、新派の美術の方面から、都会のプロレタリアの道を踏もうとしていた。三人が三人、思い思いの方向を執って、同じ時代を歩もうとしていた。末子は、と見ると、これもすでに学校の第三学年を終わりかけて、日ご・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・職場にいた頃、機関雑誌に僕はミューレンの焼き直し童話や、片岡鉄兵氏ばりのプロレタリア小説を書いていました。十銭で買った『カラマゾーフの兄弟』の感激もありましたろう。貧乏大学生の話、殊に嫁を貰ってからの兄との遠慮は、ぼくにまた幼年時からの理想・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・それは人並の家に住みたいとは思っています。子供も可哀そうだと思うこともあります。けれども私にはどうしてもいい家に住めないのです。それはプロレタリア意識とか、プロレタリアイデオロギーとか、そんなものから教えられたものでなく、キリストの汝等己を・・・ 太宰治 「わが半生を語る」
・・・松平氏は資本家で搾取者であったろうが、彼の闘志と赤色趣味とは今のプロレタリア運動にたずさわる人々と共通なものをもっていた。しかしまたピンヘッドやサンライズを駆逐して国産を宣伝した点では一種のファシストでもあったのである。彼もたしかに時代の新・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・などという極めてプロレタリアンな声が、労働階級の細君ででもあるらしい下足番の口から響いて来る。それからあのいつもの漆喰細工の大玄関をはいってそこにフロックコートに襟章でも付けた文部省の人々の顔に逢着するとまた一種の官庁気分といったようなもの・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・いい意味での善良な国民、穏和な意味でのプロレタリアは、実際めいめいのまじめな仕事に真剣に従事している限り、拙速主義の疑わしい知識に飛びついて朝夕心を騒がせ気をいら立てる必要は毛頭ないのである。 あらゆる先入観念を捨て、あらゆる枝葉の利害・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・ジャズや弁証法的唯物論のはやる都会でも、朝顔の鉢はオフィスの窓に、プロレタリアの縁側に涼風を呼んでいるのである。 この日本的の涼しさを、最も端的に表現する文学はやはり俳句にしくものはない。詩形そのものからが涼しいのである。試みに座右の漱・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・ブルジョアの生きるために、プロレタリアの生命の奪われることが必要なのとすっかり同じじゃないか。 だが、私たちは舞台へ登場した。 二 そこは妙な部屋であった。鰮の罐詰の内部のような感じのする部屋であった。低い天井と床・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
出典:青空文庫