・・・地震か、ペストか、それともソドム、ゴモラのような神罰か、とにかく、そんなに遠くもない昔に栄えた都会が累々たる廃墟となっていて、そうして、そういうものの存在することをだれも知らないかあるいは忘れ果てていたのである。 ロプ・ノールの話や、こ・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
・・・外国からペストの種を輸入して喜ぶ国民は古来多くあるまいと考える。私がこう云うとあまり極端な言語を弄するようでありますが、実際外国人の書いたものを見ると、私等には抽出法がうまく行われないために不快を感ずる事がしばしばあるのだから仕方がありませ・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・恐るべき神経衰弱はペストよりも劇しき病毒を社会に植付けつつある。夜番のために正宗の名刀と南蛮鉄の具足とを買うべく余儀なくせられたる家族は、沢庵の尻尾を噛って日夜齷齪するにもかかわらず、夜番の方では頻りに刀と具足の不足を訴えている。われらは渾・・・ 夏目漱石 「マードック先生の『日本歴史』」
・・・、カミュの「ペスト」、オオウェルの「一九八四年」、ゲオルギゥの「二十五時」などが、日本の中堅作家と同年代の外国作家の手になるものであることを見れば「明らかに盲目と無力という言葉が日本の作家に冠せられても仕方がない」伊藤整のこの感想は共感され・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・とうとうノイペスト製糸工場の前に出た。ツォウォツキイは工場で「こちらで働いていました後家のツァウォツキイと申すものは、ただ今どこに住まっていますでしょうか」と問うた。 住まいは分かった。ツァウォツキイはまた歩き出した。 ユリアは労働・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
出典:青空文庫