・・・働き着の面白さは、働きそのものを遊戯化しポーズ化した連想からの思いつきによってもたらされるものではなくて、やはり真率に働きの目的と必要とに応えて材料の質も吟味された上、菅笠で云えばその赤い紐というような風情で、考案されて行くべきなのだろうと・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・そういう場合には、あえて問題にしないで、笑ってすぎる態度が知性の聰明をあらわすポーズとされてきた。 この大人気ない、いきりたちを自分に対して嫌い、きまりわるがる日本の知性の習慣は、過去数年間に、日本の知性をよりすこやかに生かすために何の・・・ 宮本百合子 「世紀の「分別」」
・・・私はこのことをもう一度後段でとりあげたいと思うが、荷風が往年特徴としたデカダンスの張りあいない腰をおとした作家的態度を見すごすことは、何か後輩の大人らしさという風にポーズされ、この「ひかげの花」は「春琴抄」とならんで、一般文学愛好家の間にま・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・すましていてすべってころんだときは、どういうポーズと表現をしますか。あなたのお顔の色々の道具の中で何が一番お好きですか。云々という風な質問である。回答者の、ポスター・バリューのある似顔が程よく入れられていて、川路龍子、獅子文六、小野佐世男そ・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・ ふと見ると、その一団の斜め後に、二人の青年が佇んで、凝っと細々と、変化する兵士と娘たちの声やポーズに注目している。十八九歳の二人で、実直な勤労青年であることが一目で見とれる人々であった。その二つの若い日本の青年の面に浮んでいたその時の・・・ 宮本百合子 「その源」
・・・さて、とスワンソン張りにポーズし、眼瞬きの合図をし、シュラッギングをし、さも図太い女賊らしくテーブルに飛びのって一同をさしまねく。――そのうつり変りの間に、何とも云えず愛嬌があった。可愛ゆさに似たものがこぼれる。 段々監督が箍をゆるめ、・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・日本が、本当の自由主義時代を持たず、しかも急調に今日に至っていることに思い及べば、今日の或る種の女の中にあるこのようなポーズがどういう性質の歴史的混合物であるかは自ら明瞭ではないだろうか。 パラマウントが日本へ来て撮影して行った日本・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・ 六つばかりのその息子と十位の姉、雁来紅を背景にして、ポーズする。「僕もよ、僕もチャチン」 姉娘が、母の手許からすりぬけて来た末子を、「坊やちゃん、ここよ」と自分の前に立たす。パチン。 男の子はすぐ歩き出して、写生し・・・ 宮本百合子 「百花園」
・・・について見ても実際の生活の場面での問題、島木氏が悲壮な闘士のポーズとして描き出している心理の観照的態度、嗜虐性等は真の意味での健全な闘志の表現としては、少からずいかがわしいものであった。個人的な話の間に何時であったか私は「盲目」の終りの部分・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・しかし私はどこにもポーズのあとを感じなかった。因襲的な礼儀をぬきにして、いきなり漱石に会えたような気持ちがした。たぶんこの時の印象が強かったせいであろう。漱石の姿を思い浮かべるときには、いつもこのきちんとすわった姿が出てくる。実際またこの後・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫