・・・ ナロード主義が、空想的であって、マルクス主義が科学的である故に、前者に、大衆を獲得する力がないといって、貶することができるであろうか。 その時代の民衆作家は、みなナロードの精神を有していた。彼等は、親しく、農村の生活を観察したるに・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・アナーキストとして有名なクロポトキンには著書『倫理学』があり、マルクス主義運動家時代のカウツキーにさえ『倫理学と唯物史観』の著があるくらいである。ドイツ無産政党の組織者であったラサールには倫理学的エッセイ多く、エンゲルスや、シュモルラーには・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・思想検事が「ここにおいて被告はマルクス主義思想を抱懐するにいたり」と法廷でよみあげる告発の文書の文句とは、まるでちがった本質と道ゆきとをもつことである。「伸子」の続篇を書きたいと思いはじめたのは、この時分からのことである。しかし、この願・・・ 宮本百合子 「あとがき(『二つの庭』)」
・・・ここに転向というモメントから、多くの人々の精神が生涯の問題としてむしばまれ、根本から自主性を失って、マルクス主義者でなかったものより善意を歪められ卑屈にさせられて行った本質がある。「冬を越す蕾」は、治安維持法のこのような非道さにふれてい・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十巻)」
・・・志賀直哉氏が何かの場合に、自分は思想としてのマルクス主義に反対はしないが、その中で働いている人間をいきなり尊敬することは出来ない、という意味を語ったのを間接にきいた。 いかにも志賀氏らしい言葉であると、当時私は面白く思った。そういう一見・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・ 自分は、ねんばりづよく押しかえした。「合法、非合法の境は、そっちの勝手でどうにでもずらすんだから、私が知ったことではない」 マルクス主義作家として、飽くまでも合理的な文化建設のために働くことを任務とすると、自分は口述した。・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・[自注12]シャパロフ――シャパロフ著『マルクス主義への道』。[自注13]七十銭位の本になります――ゴーリキー伝のこと。健康悪化してこの伝記は未完のまま終っている。 八月十日 〔市ヶ谷刑務所の顕治宛 駒込林町より〕・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ヒューマニズムは、あらゆる人間的なるものを抑圧する強権に抗することを、そして人間性の新たなる主張を支持し、ファシズムに賛成しないものであるが、従来理解されていた意味でのマルクス主義の傾向とは異ったものである。プロレタリア文学ではない、もっと・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・これとは反対に『無産者新聞』や雑誌『マルクス主義』による市川正一、徳田球一その他の人々は、明治維新の未完成を強調した。日本の社会機構に根づよくのこっている半封建的要素と天皇制支配の非近代性を指摘した。 日本の特殊性について、大切なこの論・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ 現代ヒューマニズムは日本のインテリゲンチアがマルクス主義に絶望し、それと訣別したところにその出発があるのではなく、マルクス主義をも含めて一切の人間の精神の活動や行為、人間的独立が、虐げられ踏みにじられていたところに、そのノッピキならぬ・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
出典:青空文庫