・・・「それは余りロマンティックだ。」「ロマンティックなのがどこが悪い? 歩いて行きたいと思いながら、歩いて行かないのは意気地なしばかりだ。凍死しても何でも歩いて見ろ。……」 彼は突然口調を変え Brother と僕に声をかけた。・・・ 芥川竜之介 「彼 第二」
・・・B 今じゃあアートマンと云う語さえ忘れかけているぜ。A 僕もとうに「ウパニシャッドの哲学よ、さようなら」さ。B あの時分はよく生だの死だのと云う事を真面目になって考えたものだっけな。A なあにあの時分は唯考えるような事を云っ・・・ 芥川竜之介 「青年と死」
・・・ ここに来て私はホイットマンの言葉を思い出す。彼が詩人としての自覚を得たのは、エマソンの著書を読んだのが与って力があると彼自身でいっている。同時に彼は、「私はエマソンを読んで、詩人になったのではない。私は始めから詩人だった。私は始めから・・・ 有島武郎 「想片」
・・・ 審査に立ち合ったクロイツァーは、「自分は十三歳のエルマンの演奏を聴いたことがあるが、エルマンはその時、この少女以上にも、以下にも弾かなかった」 と、激賞した。また、レオ・シロタは、「ハイフェッツにしても、この年でこの位弾け・・・ 織田作之助 「道なき道」
・・・もっと/\君の考えてる以上に怖ろしいものなんだよ、現代の生活マンの心理というものはね。……つまり、他に理由はないんさ、要するに貧乏な友達なんか要らないという訳なんだよ。他に君にどんな好い長所や美点があろうと、唯君が貧乏だというだけの理由から・・・ 葛西善蔵 「子をつれて」
・・・ 別に不思議はない、“Man descends into the Vale of years.”『人は歳月の谷間へと下る』という一句が『エキスカルション』第九編中にあって自分はこれに太く青い線を引いてるではないか。どうせ・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・その上、君はダス・マンということを知っているでしょう。デル・マンではありません。だから僕は君の作品に於て作品からマンの加減乗除を考えません。自信を持つということは空中楼閣を築く如く愉快ではありませんか。ただそのために君は筆の先をとぎ僕はハサ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ハロルドのマント羽織った莫斯科ッ子。他人の癖の飜案か。はやり言葉の辞書なのか。いやさて、もじり言葉の詩とでもいったところじゃないかよ」いずれそんなところかも知れぬ。この男は、自分では、すこし詩やら小説やらを読みすぎたと思って悔いている。この・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・田中寛二の、Man and Apes. 真宗在家勤行集。馬鹿と面罵するより他に仕様のなかった男、エリオットの、文学論集をわざと骨折って読み、伊東静雄の詩集、「わがひとに与ふる哀歌。」を保田与重郎が送ってくれ、わがひととは、私のことだときめて・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・濃い藍色の絹のマントをシックに羽織っている。この画は伊太利亜で描いたもので、肩からかけて居る金鎖はマントワ侯の贈り物だという。」またいう、「彼の作品は常に作後の喝采を目標として、病弱の五体に鞭うつ彼の虚栄心の結晶であった。」そうであろう。堂・・・ 太宰治 「もの思う葦」
出典:青空文庫