・・・人間再出発の重大なモメントである土民との接触の面は、この映画で軍事的なものの外は見落されている。土民兵士の日常生活、彼等の白い被衣をかぶった妻子たちとの暮しぶり等は一つも画面に取り入れられていない。ただそこには調練と沙漠の行軍と描き出されて・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・ 子供らがピオニイルにならずにおれぬモメントはどこにあったのであろうか? 最も興味あり関心事であるべきそれらの点を、作者は機械主義で片づけている。同時に、一人の子供をピオニイルにしようとし、なし得たことによって得た経験が、亀のチャーリー・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ ヴォルフのカメラはまるで美感と温さとをもった生きもののようで、独特の生命に流動しながら、対象の極めて自然な、しかも性格的なモメントをとらえている。最高の機械と技術とが駆使されていることは明らかなのだが、ヴォルフの製作の一つ一つの態度は・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・人間としての不正直さのためか、意識した悪よりも悪い弱さのためか、彼はそういういくつかの人生の発展的モメントを、自分の生涯と文学の道からはずしてしまったのであった。 戦争のある段階まで、いわゆる作家的成長欲やその本質を自問しないで、ただ経・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・映画全体として、これは一つの大きい破綻のモメントである。監督フランクリンがそれに心付いていまい。そのことにもまたこの監督の身についている社会性の複雑さが語られていて感想を刺戟するところである。阿蘭が農奴として育ち農婦として大地を愛して生きる・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・は、鴎外が人間の異常な行動のモメントとして、強烈な感銘を本人に与えた一片の恩義が猶よくその人の生命を左右する力をもっていることを、美と感じたロマンティックな創作動因に立っている。封建の思惟をロマンティックな作者の精神高揚でつつんだものであっ・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・に於て、五十嵐が牧野を酷評するモメントを、その意識的思想と実際の生活感情の乖離においていることに対して、のべられているのである。 石坂氏の「悪作家より」とこの大森氏の感想文とをあわせ読み、私は、日本における左翼運動が、世界独特な高揚と敗・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・というこの小説の世界にとって重要なモメントとなっている女性の生活闘争の傷痕の問題や、プロレタリア前衛党が再結集されてゆく過程及びその階級活動全般における各種の専門活動の関係とその評価についての問題。日本の監獄が治安維持法の政治犯と云っても非・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・日本の家庭の中に根づよい男の威張りや主張の癖に対して、こういう今日の若い人の心理は、事実上決してより新しく寛闊な家庭生活の習俗を生み出してゆくモメントとはならないのである。 菓子を食べるにしろ、店の飾窓に大きいパイが並んでいて家へみんな・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・主人公の僚友に対する責任感が、自身患者であるその人個人の安静の犠牲によって果されるしかないという療養所内の現実が、もっと読者に省察させるモメントとし、とらえられてよかった。 「縫い音」 関としを 「やもめ倶楽部」 赤城・・・ 宮本百合子 「『健康会議』創作選評」
出典:青空文庫