・・・彼は飛行機や、モーターボートや、オルゴールや、空気銃などは一つも持ってみたことがありません。どれでも力蔵が持っているようなおもちゃの一つでも自分が持つことができたなら、自分はどんなにうれしいかしれないと思いました。 力蔵が持っている、い・・・ 小川未明 「星の世界から」
・・・というものがあろう。モーターボートの響を耳にしては、「橋台に菜の花さけり」といわれた渡場を思い出す人はない。かつて八幡宮の裏手から和倉町に臨む油堀のながれには渡場の残っていた事を、わたくしは唯夢のように思返すばかりである。 冬木町の弁天・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
・・・どこかお台場かどこかへ小さい船の出る浮棧橋まで出てみたら、モーターボートが通ると波のうねりでその小さい四角な棧橋がプワープワーと揺れてね。丸まっちい私は平気なようなこわいようなの。鶴さんは例の「百日かずら」の頭を風にふかせ、竹の御愛用ステッ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫