・・・夏目さんは大抵一時間の談話中には二回か三回、実に好い上品なユーモアを混える人で、それも全く無意識に迸り出るといったような所があった。 また夏目さんは他人に頼まれたことを好く快諾する人だったと思う。随分いやな頼まれごとでも快く承諾されたの・・・ 内田魯庵 「温情の裕かな夏目さん」
・・・そしてまた、入口に大きな阿多福人形を据えたところに、大阪のユーモアがある。ややこしい顔をした阿多福人形は単に「めをとぜんざい」の看板であるばかりでなく、法善寺のぬしであり、そしてまた大阪のユーモアの象徴でもあろう。 大阪人はユーモアを愛・・・ 織田作之助 「大阪発見」
・・・、全快写真の主が日ならずして、死んだとか、とくに死んでいる筈の病人が、どういう手落ちでか、百ヵ日当日の新聞広告の写真の上に生きかえって、おかげで全快してこんな嬉しいことはない云々と喋っているとか、些かユーモア味のある素っ破抜きをしてあるが、・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・「リアリズムの極致なユーモアだよ」とその当時私は友人の顔を見るたび言っていたが、無論お定の事件からこんな文学論を引き出すのは、脱線であったろう。 が、とにかく私は笑えばいいと思った。女の生理の悲しさについて深刻に悩むことなぞありゃし・・・ 織田作之助 「世相」
・・・『ユーモアについて。』と題し、中学時代のあなたの演説を、ぼくは、中学校一の秀才というささやきと、それから、あなたの大人びたゼスチュア以外におもいだせないけれども、多くの人達は、太宰治をしらずに、青森中学校の先輩津島修治の噂をします。青森の新・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・対話のユーモアやアイロニーが充分にわからないのは残念であるが、わかるところだけでもずいぶんおもしろい。新入りの二人を出迎えに行った先輩のスコッチが一人をつかまえて「お前がストーンか」と聞くと「おれはフォーサイスだ」と答える。「それじゃあれが・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・というので馬鹿気ているが、何処かしら古代日本人のユーモアとウィットを想わせるものがあると思う。以上のような読み方をするのはアカデミックな言語学者から見れば言語道断な乱暴な所業であるに相違ない。しかし古代の人間は文法も音韻方則も何も知らなかっ・・・ 寺田寅彦 「短歌の詩形」
・・・また一方においては西欧のユーモアと称するものにまでも一脈の相通ずるものをもっているのである。「絞首台上のユーモア」にはどこかに俳諧のにおいがないと言われない。 風雅の精神の萌芽のようなものは記紀の歌にも本文の中にも至るところに発露してい・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ いい考えは、むずかしい本をよんでいるときに浮ぶのではなくて、真面目にものをうけとる心さえあればいい音楽をきいていて、十分深い思慮を扶けられるものであり、ユーモアは、社会批判であることを知りたいと思います。 そして、私たちの考える能・・・ 宮本百合子 「朝の話」
・・・子供たちに炭のないわけを公平に納得させてやれるだけの社会についての知識と、そういう寒さをも何かと凌ぎよくしてやるだけのひろい科学的な工夫のできる心、歴史の時期としてユーモアと希望と洞察とでその事態を判断し得る心、そういうものが、女らしさの日・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
出典:青空文庫